金沢大学と独Diamond and Carbon Applicationsの研究グループは、ダイヤモンド中の量子ビットとして有用なNVセンターを、配向軸を揃えたまま任意の位置に生成する技術を開発した(ニュースリリース)。
ダイヤモンド中の窒素–空孔(NV)センターは、室温でも高い安定性を示す電子スピンを有し、光による操作および読み出しが可能であることから、量子情報処理における有望な量子ビット材料候補として注目されている。特に、操作性が高く長いコヒーレンス時間を併せ持つ点が大きな特徴である。NVセンターを用いた量子デバイスを実現するためには、NVセンター同士の相互作用を精密に制御することが不可欠となっている。この相互作用は主に、NVセンター間の距離と配向軸の関係に依存するため、NVセンター位置を制御することに加え、配向軸も揃えることが重要となる。
これまで、NVセンターの配列形成手法としてはイオン注入法が広く用いられてきた。しかし、イオン照射に起因する結晶欠陥や格子歪みが避けることができず、その結果、スピン特性の劣化やばらつきが生じるという課題があった。また、形成されるNVセンターの配向軸を制御できない点も、量子ビットの高密度集積化に向けた大きな制約となっていた。一方、CVD法を用いたダイヤモンド成長技術は、結晶品質を維持したまま不純物導入が可能であり、さらにNVセンターの配向制御が可能であることから、量子デバイスの集積化に向けた新たなアプローチとして期待されている。しかし、NVセンターの位置制御と配向制御を同時に実現する技術は、これまで確立されていなかった。
今回の研究では、水素および窒素ガスを用いたプラズマ生成ラジカルエッチング技術と、フォトリソグラフィにより作製したAu/Ti金属マスクを組み合わせた新たなダイヤモンド加工・成長プロセスを開発した。このエッチングプロセスは、ラジカルによる化学反応に基づく手法であり、イオンビームなどに代表される物理的衝突を伴わないため、NVセンターの特性劣化の要因となる結晶ダメージを導入しにくいと考えられる。さらに、エッチングの進行と同時にTiマスク表面を窒化することで、CVD成長中に問題となる金属マスクの水素による劣化に対して、耐久性を大幅に向上させることが可能となる。

エッチング後、試料をCVDチャンバーから取り出すことなく連続してCVD成長を行なうことで、エッチングした領域のみに高配向NVセンターを有するダイヤモンド層を埋め込み成長させることに成功した。埋め込み成長を行なった領域にのみ、強いNVセンター由来の蛍光が観測された。さらに、埋め込み成長領域における光検出磁気共鳴(ODMR)スペクトルを測定したところ、通常観測される内側2本のピークが強い4本分裂構造とは異なり、外側ピークの強度が顕著に強いスペクトルが確認された。

(c)ODMRスペクトル
この結果は、埋め込み成長によって形成されたNVセンターが、特定の結晶方位に高い割合で配向していることを示している。以上の結果から、この研究で開発したプロセスにより、NVセンターの配向制御と位置制御を同時に実現できることが実証された。さらに、このプロセスは(100)基板にも適用可能であり、結晶方位の制約を受けずにNVセンターの位置制御を実現できる、汎用性の高いプロセス技術であることも示された。
今回の技術は、ダイヤモンド量子ビットの高密度集積および多量子ビット化を可能とする基盤技術として、量子デバイス研究に新たな展開を切り開くものだという。今後は、NVセンターの位置制御技術のさらなる高度化を進めることで、三次元的な量子ビット配列の実現を目指す。これにより、室温で動作するダイヤモンド量子コンピュータに向けた技術基盤の確立に貢献することが期待されるとしている。



