東北大学と情報通信研究機構(NICT)は,量子情報を担う量子ビットとして直接利用できる単一光子の偏光状態や量子もつれ状態を,低損失かつ高度に維持しながら伝送経路を切り替えられるルーターの開発に成功した(ニュースリリース)。
近年,量子コンピューターや量子暗号通信などの次世代情報技術の研究が活発化している。これらを実現するためには,量子情報デバイス間をつなぐ量子ネットワークを構築し,光の量子である単一光子や量子もつれ光子の伝送経路を自在に切り替えるルーティング技術が求められる。
今回の研究では,光子のルーターを構成する全ての光学素子が偏光無依存に動作することで,低損失かつ偏光に依存しない光子のルーティング動作を実現している。光子ルーターは,電気光学スイッチと光学干渉計を組み合わせて開発した。
電気光学スイッチでは,従来,偏光を切り替えるスイッチ(ポッケルスセル)として用いられてきた2つの電気光学結晶の配列を,互いに90°回転させることで,電気光学結晶を通過する光子がどのような偏光状態にあっても,印加電圧に応じた同一の位相変化を受ける素子を実現した。
さらに光学干渉計は,全ての光学素子に対して光子が浅い入射角(5°)となるように変形した干渉計を構築した。これは,一般に0°もしくは十分に小さい入射角で光が入射するときに反射による偏光回転が起こらないことを利用するもの。その結果,最小限の数の光学素子で光子ルーターが構築され,これまでで最も低損失かつ偏光無依存な光子のルーティング動作を実現した。
実験では,光通信で使用する波長域にある単一光子源や量子もつれ光子源を用いてルーターを評価した。ルーターの通過による単一光子の損失は1.3%(0.06dB),光子の伝送経路を切り替える精度は 99.3%,光子の偏光が維持されている確率は99%以上であり,これまで報告されてきた光子ルーターデバイスを上回る性能を示した。
さらに,このルーターを用いた量子もつれ光子のルーティングを実証した。量子もつれ光子は,量子ネットワーク構築の資源となるが,複数光子の強い相関状態にあるため,高精度なルーティングは単一光子よりも挑戦的になる。
この研究では,世界で初めて偏光が直交する2光子の量子もつれ状態(N00N状態)の伝送経路をルーティングし,N00N状態の特徴である,干渉縞の周期が古典的な光学干渉の1/2になる現象を高い明瞭度(97%)で観測した。
研究グループは,このルーター技術は,量子ネットワーク内での量子もつれ光子の高精度な伝送経路切り替えや,全光学的な量子メモリ技術への応用などが期待されるとしている。




