横浜国立大学の堀切智之教授らの研究グループは、LQUOMとの共同研究により、長距離量子通信の実現に不可欠な周波数多重量子メモリと量子光源を接続するシステムの開発に成功した(ニュースリリース)。この研究成果は、量子通信の多重化において我々の知る限り世界最高となる83の周波数多重度を達成しており、次世代の情報通信基盤である「量子インターネット」の構築に向けた重要な技術的進展である。
量子通信は、量子暗号による完全なセキュリティの確保や分散量子計算など、多様な応用を可能にする次世代の通信方式であるが、光ファイバー内での光子の減衰により、長距離化が困難という課題を抱えている。この課題を克服するために、通信路を短く区切って量子状態を保存・延長する量子中継技術が必要とされており、特に通信レートを大幅に向上できる周波数多重方式が有力視されている。本研究では、量子中継器の基幹要素である量子光源と量子メモリの双方を多重化し、それらを安定に接続・運用できるシステムを構築した。
開発された量子光源は、共振器内で光子対を生成することで、特定の周波数多重性と高い生成レートを両立している。生成された光子対のうち、一方は周波数多重量子メモリに結合され、もう一方は光ファイバーを通じて遠方のノードへと送られる仕組みである。また、量子メモリの媒質にはプラセオジム添加結晶(Pr:YSO)が採用されており、レーザーで結晶の吸収スペクトルを制御して櫛状の構造(コーム)を形成することで、世界最高水準の多重モードでの光子保存および再生を実現した。

実際にこの量子光源と量子メモリを接続して性能を検証したところ、メモリに保存されずに通過した光子の信号(下記図の左側のピーク)に対し、メモリに吸収・保存された後に再生された光子信号(下記図の右側の青色のピーク)が明確に観測され、システムが安定して動作することが実証された。

右側のピークがメモリに吸収・保存されたのちに、再生された光子信号。
本研究は、内閣府ムーンショット型研究開発事業や総務省、NEDOの支援を受けて行われ、成果は2026年5月28日付の国際科学誌「Applied Physics Letters」に掲載された。今後は、開発したシステムを複数接続し、通信路を介した周波数多重量子中継の実証に取り組む予定である。この技術基盤の前進により、長距離かつ高レートなグローバル量子通信網の実現が期待される。



