新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が6月1日に発表した「Innovation Outlook Ver. 1.0増補版」は、日本の産業技術が目指すべき新たな羅針盤となる報告書である(ニュースリリース)。今回の増補版では、将来の市場ポテンシャルや経済安全保障上の重要性を鑑み、国が重点投資すべき「フロンティア領域等」として新たに12の領域が特定された。この動きは単なる現状分析にとどまらず、7月1日から開始される具体的な研究開発テーマの公募(RFI)や、6月15日に開催される「NEDOサミット」(NEDOサミットサイト)を通じて、実社会への実装を加速させる国家的プロジェクトの端緒となるものである。光技術に関わる産業界や研究者が特に注目すべきは、これら12領域の中に「フォトニクスコンピューティング」や「量子センシング」といった、光・レーザー技術が核心を担う領域が明確に位置づけられている点だ。

特に「フォトニクスコンピューティング」領域は、生成AIの急速な普及に伴う膨大な電力消費という喫緊の社会課題に対する、ハードウェア側からの抜本的な解決策といえる。電子(エレクトロニクス)に代わって光(フォトニクス)でニューラルネットワークや汎用コンピュータを実装することで、データセンターやエッジデバイスにおける極低消費電力なAI基盤の確立を目指すものだ。現在は生成AIの核となるトランスフォーマーモデルの実装可否や、小規模言語モデル(SLM)を実行するための積和演算素子の開発が視野に入っており、エレクトロニクスの限界を超える「光による演算」への期待は極めて大きい。
また、「量子センシング」「光格子時計」光学デバイス開発が普及の鍵を握るとされている。さらに、ダイヤモンドNVC(窒素-空孔中心)を用いた高感度計測技術も、半導体の非破壊不良解析など広範な産業分野への応用が提案されており、光技術の応用範囲は極めて広い。
これらのフロンティア領域は、単一の技術開発にとどまらず、社会課題(Mission)から必要とされる機能(Function)、そしてそれを実現する技術(Technology)へとつなげる「MFTロジックモデル」によって体系化されているのが特徴だ。6月15日に開催される「NEDOサミット」では、これらの領域をリードする専門家によるピッチや個別面談が行われ、産学官のアイディアを融合させる貴重な場が提供される。近年報じられた光格子時計の商用化や、北海道での光電融合技術の産業集積といった動きを見ても、日本の基礎研究の成果が社会実装へと接続される速度は確実に上がっている。7月から始まるRFIは、日本のフォトニクス・レーザー技術が世界の次世代標準を担うための、極めて重要なマイルストーンとなるだろう。(編集部 林 諭子)




