著者:物質・材料研究機構 原田尚之
1. まえがき
光デバイス・センサー,集積回路,パワーデバイスなどの分野では,電極や配線材料に対する要求が年々高度化している。単に電気をよく流すだけでなく,微細化した時のスケーリング特性が良いこと,光を透過すること,高温や酸化雰囲気で安定であること,微細加工やウエハプロセスに適合することなど,複数の機能を同時に満たす材料が求められている。特に,光学部品,センサー,半導体デバイスの高性能化や用途拡大に伴い,従来の金属電極や透明導電膜だけでは対応しにくい課題が顕在化している。
本稿では,PdCoO2やPtCoO2に代表される金属性デラフォサイト(metallic delafossite)について紹介する。これらは,デラフォサイト型酸化物の中でも金属的な電気伝導を示す物質群である1〜3)。これらは酸化物でありながらAuに匹敵する電気伝導度を示し,極薄膜化しても比較的低い抵抗率を保つ4〜8)。近年は最先端半導体の微細配線材料としても注目されている9〜14)。Cu配線では,線幅が10 nm級に近づくと表面・界面・粒界散乱により抵抗率が増大し,拡散バリアやライナー層が有効な導電断面積を減らす。次世代配線材料には,バルク抵抗率だけでなく,微細化しても抵抗率が増えにくいことが求められる。
この「薄くしても抵抗が上がりにくい」という性質は,透明導電膜にも共通して重要である。透明導電膜では,光透過率を高めるために膜を薄くしたい一方で,膜を薄くすると通常はシート抵抗が上昇する。したがって,金属性デラフォサイトの薄膜化に対するスケールメリットは,赤外透明電極や光デバイス用電極においても有用である。本稿では,特に光特性と導電性を中心に,金属性デラフォサイト薄膜の特徴と応用可能性を述べる。
2. 金属性デラフォサイトの特徴
デラフォサイト型酸化物ABO2は,Aサイト金属層とBO2層がc軸方向に交互に積層した層状構造を持つ。デラフォサイト型酸化物には,透明p型半導体CuAlO2,磁性酸化物,マルチフェロイック物質など多様な物質が含まれる。その中で,PdCoO2,PdCrO2,PdRhO2,PtCoO2は高い金属的導電性を示す代表的な金属性デラフォサイトである。
電気伝導を主に担うのは,PdまたはPtからなる二次元三角格子層である。一方,CoO2,CrO2,RhO2などのBO2層は伝導層の間を隔てるブロック層として働く。このため,電子は面内方向には非常に流れやすく,面直方向には流れにくい。このように,層状の結晶構造により電子が面内方向に流れやすい,擬二次元電子系を形成している。
PdCoO2の面内抵抗率は室温で約2.6 µΩcmであり,単体Pdより低い。PtCoO2ではさらに低く,約2.1 µΩcmである2)。これはAl,Au,Cuなど,良導体として知られる金属並みの値であり,酸化物としては桁外れに高い電気伝導性である。図1に示すように,代表的な金属性デラフォサイトは,多くの金属と比較しても上位に位置する。酸化物は一般に金属より導電性が低いと考えられがちであるが,PdCoO2やPtCoO2はその常識を覆す物質群である。

PdCoO2およびPtCoO2は,酸化物でありながらAu,AlやCu並みの高い面内電気伝導度を示す。導電性を担うのはPdまたはPtからなる二次元伝導層であり,金属性デラフォサイトの大きな特徴となっている。
注:無印は300 Kの報告値。†印のPdCoO2は295 Kの報告値。*印は273 Kの報告値。⁑印は273 K,293 Kの報告値から外挿して求めた300 Kの値。応用物理 第91巻,第7号,p. 406-409(2022)より転載。
高い導電性の背景には,散乱の少ない電子状態がある。PdCoO2やPtCoO2のフェルミ面は,擬二次元金属に特徴的な柱状形状を持ち,電子はPd層またはPt層内を長い距離にわたって散乱されずに移動できる7, 8, 15)。高品質単結晶では,低温で電子平均自由行程が20 μmを超えることも報告されている。極低温におけるバリスティック輸送や電子の流体力学的な伝導など基礎物理の研究で注目されている16〜18)。
工学応用の観点で重要なのは,この高導電性が酸化物結晶中で実現している点である。PdCoO2やPtCoO2は酸化物であるため,多くの金属薄膜で問題となる表面酸化の影響を受けにくい。また,大気中で800℃を超える高温まで安定であり,化学的にも堅牢である1, 19)。金属並みの導電性と,酸化物としての安定性を同時に利用できることが,この物質群の最大の魅力である。



