表面偏析と自己組織化を組み合わせたペロブスカイト太陽電池の自発的積層制御技術

著者:埼玉大学 石川 良

1. はじめに

2050年の炭素循環社会の実現に向け,再生可能エネルギーの導入拡大が必要である。現在,世界の太陽光発電の98%以上を結晶シリコン系太陽電池が占めているが,シリコン系は製造に多大なエネルギーを要し,重くて硬いという物理的制約から,耐荷重の小さい工場の屋根や建物の壁面への設置が困難という課題がある。

これに対し,次世代太陽電池として期待されるペロブスカイト太陽電池(PSC)は,塗布や印刷プロセスといった低エネルギー・低コストな手法で製造でき,かつ軽量・フレキシブルなデバイス化が容易である。筆者が2017年に本誌で報告した当時は1),光電変換効率(PCE)は最高で22.7%であったが,図1の光電変換効率の推移に示す様に,この9年間で更に高効率化が進み小面積ではPCEが27%とヘテロ接合結晶シリコンと同等レベルまで向上した。またペロブスカイトと結晶シリコンを組合せたタンデム太陽電池は23.6%から35%へと急速に進歩し,ペロブスカイト/ペロブスカイトタンデムでも30.1%という値が認証されている2)。現在,研究の焦点は耐久性の向上と共に,ラボレベルの成果を如何にモジュール量産化に繋げるかという産業実装の段階へと移っている。

図1 各種太陽電池の光電変換効率の推移Best Research-Cell Efficiency Chart2)のデータを基に作成
図1 各種太陽電池の光電変換効率の推移
Best Research-Cell Efficiency Chart2)のデータを基に作成

2. 2017年前報の振り返りと,多層一括成膜の概念

2017年の報告では,筆者らは環境負荷の高い溶媒や技量を要する貧溶媒法を用いずに,いかに緻密なペロブスカイト薄膜を得るかに注力していた。当時は高沸点溶媒である1-シクロヘキシル-2-ピロリドン(CHP)やルイス塩基であるチオセミカルバジド(TSC)を添加し,溶媒蒸発速度と結晶核密度を制御することで,大粒径かつ高結晶性の薄膜を得る手法を確立した3, 4)。現在も本手法を基にした手法を活用している5〜8)。当時も現在もPSC製造プロセスでは,透明導電膜(TCO)付き基板上に,正孔輸送層(HTL),ペロブスカイト光吸収層(i層),電子輸送層(ETL)などの層を一層ずつ順次成膜していく方式である。この方式では塗布と加熱乾燥を繰り返す為,製造時間が長くなる問題があり,量産時には多数の製造装置が必要となる。

筆者らは,この課題を根本から解決するため,電荷輸送材料をペロブスカイト前駆体溶液に直接添加し,一度の塗布と熱処理で複数の層を同時に形成する自発的積層制御技術である「多層一括成膜プロセス」の開発に挑戦した(図2)。これは,材料の自発的な移動現象,すなわち「自己組織化」と「自己偏析」という物理化学的なメカニズムを利用した手法である。具体的には,以下の3つの段階を経て技術を深化させてきた。

図2 多層一括成膜と従来法の概念図
図2 多層一括成膜と従来法の概念図

1.p-i一括成膜:基板界面への自己組織化を利用し,正孔輸送層とペロブスカイト層を同時に形成。
2.i-n一括成膜:膜表面への偏析を利用し,ペロブスカイト層と電子輸送層を同時に形成。
3.p-i-n 3層一括成膜:上記二つを統合し,一度の工程でデバイスの主要3層を同時に形成。

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