東京大学と英ヨーク大学は、陽電子の3光子崩壊を利用した新しい幾何学的イメージング原理を確立した。さらに、シンチレータとSiPMを用いた独自のガンマ線計測システムと、既存のPET薬剤(18F-FDG)を用いることで、3光子崩壊比率の画像化に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

現在の核医学PET検査は、陽電子の2光子対消滅過程を利用して薬剤の集積量を可視化するため、得られるのは量的情報にとどまっており、疾患の悪性度を左右する低酸素状態(hypoxia)などの質的情報を十分に捉えることができない。近年では、陽電子の消滅過程で生じるポジトロニウムの平均寿命イメージングが期待されているが、その実現には特殊な核種の導入が必要であり、実用化に向けた大きな障壁となっていた。
一方、ポジトロニウムの3光子・2光子崩壊比率に着目すると、薬剤の種類によらずより多くの情報を抽出することができる。しかし、その画像再構成には複雑な方程式(二元四次方程式)の逐次解法や逆解析が必要となるほか、高いエネルギー分解能を持つ検出器システムが不可欠であるため、計算コスト・技術コストの両面からこれまで実用化には至っていなかった。
今回、研究グループは、3光子崩壊のエネルギー・運動量保存則が満たす幾何学的対称性に着目し、複雑な問題を解析的な二次方程式へと帰着させる手法を発明した。さらに、臨床PET装置と互換性があり、高エネルギー分解能を持つHR-GAGGシンチレータアレイとSiPM光検出器アレイを用いた独自の検出システムを開発した。このシステムと既存のPET薬剤(18F-FDG)を用いて実験を行った結果、多孔質物質中においてポジトロニウム比率が優位に向上することを観測し、世界初のポジトロニウム比率イメージング(PRI: Positronium Ratio Imaging)の原理検証に成功した。


PRIを用いると、追加の被ばくを伴うことなく、生体や物質内の微小環境(空隙の大きさや低酸素状態)を非侵襲的に可視化することが可能となる。特に、組織の低酸素状態は、がんの悪性度や治療抵抗性を決定づける重要なバイオマーカーである一方、これまで定量的な測定が困難でしたが、PRIを用いることで、最適な治療方針の早期決定が可能となることが見込まれる。また、脳内低酸素領域の発生が初期病態に関与すると示唆されているアルツハイマー病の超早期診断への貢献も期待されるとしている。
さらに、この手法は近年の核医学の潮流である治療(Therapeutics)と 診断(Diagnostics)を組み合わせた医療技術であるセラノスティクス(Theranostics)とも高い親和性を秘めているという。例えば、64Cuなどの治療・診断一体型核種を用いてPETとPRIを併用することで、腫瘍の代謝と低酸素環境を定量化しながら同時に治療を行うことが可能となり、個別化治療の実現に大きく寄与することが期待されるとしている。



