関西医科大、細胞にかかる「力」を色で可視化する新しい蛍光張力センサーを開発

関西医科大学の研究グループは、細胞にかかる目に見えない「力」を、「色」の変化としてひと目で分かるようにする新しいセンサーを開発した(ニュースリリース)。

人間の身体を作る細胞は、心臓の拍動や消化管の運動など、常にさまざまな「力(物理的ストレス)」にさらされている。この「力」は、組織の正常な発生や恒常性の維持に不可欠だが、異常な力がかかると心不全やがんなどの病気を引き起こす要因となる。このメカニズムを探る「メカノバイオロジー」という分野が現在世界中で注目されている。これまでにも細胞内の力を測るセンサーはあったが、2つの蛍光タンパクを使った複雑な仕組み(FRET)であったため、画像解析が非常に難しく、厚みがあり絶えず動いている「生きた哺乳類の臓器」での力の測定には、乗り越えるべき大きな技術的ハードルがあった。

この問題を解決するため、研究グループは極めてシンプルで直感的な独自の「単一蛍光張力センサー」を開発した。具体的には、改変した緑色の蛍光タンパク質(cpEGFP)に、クモの糸からなる特殊な「バネ」を組み込み、細胞内で力を受けると変形する骨組みのタンパク(細胞骨格タンパク質:α-アクチニンやαカテニン)に挿入した。さらに、力がかかっても蛍光強度が変わらない「赤色の光(mCherry)」 を連結させている。これにより、細胞が引っ張られると緑色の光が減り、緩むと緑色が明るく光る仕組みを実現した。複雑な画像解析を行なわなくても、「赤色と緑色の色合い(バランス)」を見るだけで、細胞にかかっている力をひと目で測定できる技術となっている。

(図)新しく開発した蛍光張力センサー
「力」がかかると、緑色の光が減り、センサーは赤っぽくなり、「力」が減ると、緑色の光が増え、センサーは緑っぽくなる。

今回の研究では、細胞内の「力」を緩める薬剤を用いた実験で、張力が低下するのに連動して想定通りにセンサーの色が変化することを確認し、細胞内で正確に機能することを実証した。また「光ピンセット」と呼ばれるレーザー技術を用い、このセンサーが極めて微小な数ピコニュートン(1兆分の1ニュートン)の力の増減を正確に捉えることを証明した。

さらに、このセンサーを遺伝子に組み込んだ遺伝子改変マウスを独自に作製し、超解像顕微鏡を駆使して高解像生体イメージングを行なった。これにより、シャーレ上の培養細胞といった限られた環境ではなく、生きたマウスの心臓や肝臓といった「臓器レベル」において、細胞内の微細な構造(細胞骨格や細胞同士の接着部)にどのような「力」がかかっているのかを、初めて高解像度で可視化することに成功した。

(図)蛍光張力インディケーターマウス
マウスの心臓の心筋細胞でZ-バンド(α-アクチニン)のしましまがきれいに描出されている。ここに力を弱める薬剤を加えると、蛍光張力センサーは緑っぽくなる。

この新技術を用いて生きた組織を観察した結果、細胞にかかる「力」は想像以上に精巧かつ複雑にコントロールされているという驚きの事実が明らかになった。例えば肝臓において、細胞同士を繋ぎ止める同じ接着部分であっても、「α-カテニン」という分子には均等に強い力がかかっているのに対し、「α-アクチニン」という分子にかかる力は、モザイク状の不均一な状態になっていた。また、心臓の心筋繊維を束ねるZバンドでも、力は決して均等ではなく、モザイク状に分散してかかっていることも分かった。

これは、組織が日常的に受ける激しい物理的ダメージから身を守るため、単一の分子ではなく複数の分子が連携して巧みに力を逃がし、分散させていることを示している。この成果により、生体特有の未知の力学メカニズムの存在が示唆された。今回開発した革新的なツールにより、生体内での張力測定が飛躍的に容易になることで、異常な物理的ストレスが引き起こす心血管疾患やがんなどのメカニズム解明が大きく前進し、力学的アプローチからの新しい治療薬スクリーニングなどへ応用されることが期待されるとしている。

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