超小型衛星搭載に向けたハイパースペクトルカメラの小型化と軌道上観測

著者:福井大学 青柳賢英

1. はじめに

人工衛星による地球観測は,従来から農林水産業や災害監視などの分野で活用されてきた。例えば農業分野では,農作物の収量予測や土壌状態の把握などに利用されており,また災害監視分野では,人工衛星画像を用いた災害危険区域マップの作成や,災害発生後の被災状況把握など,多岐にわたる用途がある。従来の地球観測衛星は,数トンから数百kg規模の大型衛星が主流であり,その多くは国主導で開発・運用されてきた。一方,近年では重量数十kg程度の超小型衛星が登場し,さらに一辺10 cmの立方体を1U(約1 kg)とするキューブサットが普及したことで,地球観測の実利用が加速している。これに伴い,超小型衛星の量産製造に向けた取り組みも進められている1)。このような多数の超小型衛星を連携させ,一体的に運用する仕組みは「衛星コンステレーション」と呼ばれる。地球観測分野においても,スタートアップ企業を中心として,衛星コンステレーションによる地球観測網の構築が進められている。

観測技術の観点では,広域の分光画像を取得可能なハイパースペクトルカメラが注目されている。一般的なカラーカメラが赤・緑・青の3波長を観測するのに対し,マルチスペクトルカメラは3~10波長程度の分光観測を行う。これに対して,ハイパースペクトルカメラは数十から数百の波長帯に分割して撮影することが可能であり,対象物の状態把握や分類を高精度に行うことができる。例えば農業分野では,作物の分布状況の把握や,作物ごとの生育状態の評価が可能である。また森林分野においては,広葉樹・針葉樹の区別にとどまらず,樹種同定も可能であるため,森林管理計画への応用も期待されている。分光情報と画像情報を組み合わせることで,目視判読のみでは困難な解析が可能となり,今後の災害監視や防災分野における利活用も期待される。

しかしながら,ハイパースペクトルカメラは,従来技術ではサイズや重量の制約から,超小型衛星への搭載が困難であった。本稿では,ハイパースペクトルカメラの小型化技術と,そのキューブサットへの搭載,ならびに軌道上からの観測成果について紹介する。

2. ハイパースペクトルカメラの小型化技術

2.1 LVBPF型ハイパースペクトルカメラ

ハイパースペクトルカメラは,分光方法の違いによりいくつかの方式に分類される。従来のスリット分光器を用いたハイパースペクトルカメラは,図1(a)に示すような構成を有する。1回の撮像ではスリットを通すことにより,1次元の空間情報とその分光情報を同時に取得する2)。これを衛星進行方向に連続撮影するプッシュブルーム方式によって,2次元の空間情報を得る。光学系は,望遠鏡などで集光した光をコリメータによって平行光とし,分散素子に入射させた後,2次元イメージセンサ上に結像させる構成となる。分散素子としては,回折格子やプリズムが一般に用いられる。この方式では,1ライン分の分光情報を同時に取得でき,かつスリットを通す構成であるため,1ピクセル内の波長純度が高く,高品質なハイパースペクトルデータを取得できる。一方で,回折格子などを含む分光器が必要となるため,光学系が大型化しやすいという課題がある。

図1 衛星搭載ハイパースペクトルカメラの観測方法(a)スリット分光器によるハイパースペクトルカメラ,(b)LVBPF型ハイパースペクトルカメラ
図1 衛星搭載ハイパースペクトルカメラの観測方法
(a)スリット分光器によるハイパースペクトルカメラ,(b)LVBPF型ハイパースペクトルカメラ

これに対し,本研究ではリニア可変バンドパスフィルタ(LVBPF:Linear Variable Band-Pass Filter)を用いたハイパースペクトル撮像方式を提案する(LVFと呼称される場合もある)3)。リニア可変バンドパスフィルタは,位置に応じて透過波長が線形に変化する分光フィルタである。このフィルタを用いたハイパースペクトルカメラは,図1(b)に示すような構成となり,1回の撮像で分光画像を取得することが可能である。従来方式では分光器の小型化が大きな課題であったが,LVBPFを用いることで分光器を不要とし,光学系全体の大幅な小型化が可能となる。

高い波長純度を得るためには,分散素子を用いたハイパースペクトルカメラが有効であるが,その一方で小型化が困難であるという欠点を有する。これに対して,キューブサットに代表される超小型衛星に搭載される観測センサには,サイズや質量に対する厳しい制約が課される。そのため,リニア可変バンドパスフィルタなどの分光フィルタを用いた方式は,超小型衛星搭載用ハイパースペクトルカメラとして特に適した手法であると言える。

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