日常光デジタルホログラフィ

著者:情報通信研究機構 田原 樹

1. はじめに

3次元画像計測技術に関する研究開発は長年行なわれている。その内の一つとしてデジタルホログラフィ1)は,単眼で3次元画像情報を取得でき,透明物体等の定量位相画像情報を計測でき,物理的な被写界深度を超えて画像計測できる次世代3次元計測技術として長年研究開発されてきた。現在デジタルホログラフィに対して,世界的にベンチャー企業が設立される等,社会実装の機運が高まっている。

一方,一般的にデジタルホログラフィは光源にレーザーを必要とするため,適用可能な場面が限定される。あらゆる場面での適用を目指して我々は,日常生活にて用いられる光源を用いたデジタルホログラフィ技術・光学システムを研究開発してきた。各種技術とその進展を紹介する。

2. 日常光デジタルホログラフィ(自然光デジタルホログラフィ2)

図1に日常光を用いるデジタルホログラフィの光学システム概略を示す。日常光デジタルホログラフィ(または自然光デジタルホログラフィ2))には,図1(a)に示す,自己干渉計を用いて完全パッシブホログラフィを実現する光学システムと3〜7)図1(b)に示す,空間的に部分コヒーレントな照明光と自己参照干渉計を用いて3次元空間のホログラフィック定量位相計測を行なう光学システム8, 9)が提案されている。

図1 日常光デジタルホログラフィの概略。(a)自己干渉に基づく完全パッシブホログラフィ,(b)自己参照に基づき定量位相3次元計測するホログラフィの光学システム。
図1 日常光デジタルホログラフィの概略。(a)自己干渉に基づく完全パッシブホログラフィ,(b)自己参照に基づき定量位相3次元計測するホログラフィの光学システム。

デジタルホログラフィでは通常,レーザー光源を用い,物体照明光と干渉生成のための光波(参照光)の2光波を生成する。物体に物体照明光を照射し,イメージセンサーを用いて物体の3次元空間情報が含まれた,物体より回折した光波(物体光)の干渉縞画像(デジタルホログラム)を取得する。

一方,図1(a)の日常光デジタルホログラフィにおいては,太陽光照明下のシャボン玉や道路上油膜に生成される干渉模様,白色光照明下のニュートン環が示す,自己干渉と呼ばれる現象を利用する。薄膜または2光学素子により生成される2自然光波の光路長差が波長レベルの時,自然光波同士は干渉し,干渉模様または同心円状の干渉縞画像を生成する。この自己干渉現象は,空間的,時間的にインコヒーレントな自然光でさえも自らの光波に対しては干渉する事を示している。

この自己干渉を利用すると,自然光の3次元空間情報をホログラムとして取得できる。具体的には図1(a)に示す自己干渉計を用いた光学システムの通り,偏光子を通してコヒーレントな偏光状態を生成し,水晶レンズ,液晶レンズ等複屈折レンズを用いて,波面の曲率半径が異なり偏光方向が直交する2物体光を生成する。日常光はレーザー光と異なり可干渉距離が短いため,イメージセンサー面への到達タイミングが合う様に,2光波の光路長差を合わせる複屈折位相板を設置する。単一露光位相シフト干渉法10〜12)に用いられる1/4波長板とフルカラー偏光イメージセンサーを用いると,デモザイキングと位相シフトホログラフィ13)の信号処理を通じて1枚のホログラムよりフルカラー3次元画像情報を像再生する。

図1(b)に示す自己参照干渉計を用いた光学システムにおいては,ホログラフィ14, 15)よりも前に発明された,ゼルニケ位相差顕微鏡16)に見られる自己参照干渉計を活用する。ハロゲンランプやLEDを光源に用い,光学顕微鏡等に見られる照明光学系を通じて,光波の進む方向が真っ直ぐな,空間的に部分コヒーレントな照明光を物体に導入する。物体光に対してフーリエ変換光学系を用い,物体光のフーリエ変換面に相当する面に空間光位相変調素子を設置して物体光の内,ランダム位相開口付き位相マスク8)を用いて照明光と伝搬方向が同様の光波成分を一部参照光に変換する。イメージセンサー面にて物体光と参照光が干渉してホログラムを形成するため,これをデジタル撮影する。空間光位相変調素子を制御して位相変調量を逐次変更すると,位相シフトデジタルホログラムを得られる。位相シフトホログラフィの信号処理を通じて3次元空間における光強度画像と定量位相画像を再生する。

また,我々の研究グループが発明した多次元多重位相シフト干渉法:計算コヒーレント多重技術17, 18)を適用すると,複数波長帯のホログラムを多重記録した後,信号処理を通じて3次元空間における複数波長帯の光強度画像と定量位相画像を再生できる。

関連記事

  • 金並みの導電性と赤外透明性を有する高耐久酸化物薄膜

    著者:物質・材料研究機構 原田尚之 1. まえがき 光デバイス・センサー,集積回路,パワーデバイスなどの分野では,電極や配線材料に対する要求が年々高度化している。単に電気をよく流すだけでなく,微細化した時のスケーリング特…

    2026.06.23
  • サントスの飛行機

    著者:熟成考房舎 鴫原正義 世界初は逃しても、平和主義を貫く 世界初の有人動力飛行は米国のライト兄弟が達成していますが、当時は多くの人たちが飛行へのチャレンジをしては失敗を繰り返していました。一方、ライト兄弟の成功から3…

    2026.06.23
  • レーザ加工の基礎の基礎【13】 レーザ接合⑷

    著者:Laser Technology Fountain 門屋輝慶 5.14 レーザ発振器および材料 ⑴金属材料 さまざまな金属がレーザ溶接されている。金属の合金成分によって,金属が溶接可能か,またどのような品質の溶接が…

    2026.06.23
  • コーヒーハウス

    著者:熟成考房舎 鴫原正義 独立戦争やフランス革命までが… ネットワーク社会の現在は、さまざまな形での交流の場を作ることができます。しかし、インターネットのような技術が生まれる前は交流の場も限られていました。18世紀の欧…

    2026.06.11
  • レーザ加工の基礎の基礎【12】 レーザ接合⑶

    著者:Laser Technology Fountain 門屋輝慶 5.11 溶接品質 ⑴溶け込み幅と深さ 溶接部の幅と深さは,溶接断面を表すものであり,溶接断面は溶接継手部の強さを決定する。この理由によって,必要な溶接…

    2026.06.10

新着ニュース

人気記事

編集部おすすめ

  • オプトキャリア