ミニインタビュー

田原先生に聞く
ホログラフィ技術を用いて目指す日常と計測の未来
─研究を始めたきっかけから
大学の学部生の時に受けた,ある先生の講義がきっかけです。その先生は,電磁気学という難しい物理現象を数学で記述する方法を非常に分かりやすく教えてくださる方でした。そして,その先生自身が研究していたのがホログラフィでした。先生の魅力に惹かれてその研究室に入ったことが,すべての始まりです。
─この研究の面白さを教えてください
学生時代には1メートルほどの大掛かりな除振機構付き金属テーブルとレーザーを使わなければ撮影できなかったものが,今では指先サイズのコンパクトな干渉計で実現できるようになっています。さらに,レーザーを使わず,LEDなどの日常的な光でフルカラー撮影を行なう技術も登場しており,研究を続ける中で新しい側面が次々と見えてくる点に魅力を感じています。自分の技術が社会実装される最前線に立っているという実感も,大きなやりがいです。
─研究で苦労をしていることは
日本の構造的な問題として,海外に比べて研究資金や人員が少ない中でどのように戦うか,という点があります。社会実装には多くの人手が必要ですが,少人数の場合は先端的な理論で勝負し,早めに特許を出すといった工夫が求められます。
また,実験は常に試行錯誤の連続です。市販のデバイスが突然生産中止になるなど,外部要因に振り回されることもあります。仲間集めも含め,苦労は絶えません。
─どのように応用されることを期待していますか
私たちが作った技術が,社会のどこかに「常識」として根付くことが一番の願いです。
表に出てこなくても,知っている人は知っているという形で応用されていればいいなと思っています。
具体的には,イメージセンサーの3D対応や,顕微鏡,医療分野への応用ですね。特に,精密な動きが求められる手術支援ロボットの3Dセンサーとして役立てば素晴らしい発展だと考えています。
─若手研究者が置かれている状況について
大学での基礎研究だけでなく,社会実装まで求められるプレッシャーが年々強まっており,若手研究者にとっては厳しい状況だと思います。
また,日本の給与水準は世界的に見て低く,優秀な頭脳を世界中から集めることが難しくなっているという現実もあります。
─若手や学生に向けてメッセージをお願いします
私はまだ海外での研究を経験できていないのですが,もしチャンスがあれば,博士課程の間に数カ月でも海外留学をお勧めします。世界の研究者がどのように研究し,働いているのかを知ることは,研究の見方を広げ,人生を豊かにしてくれると思います。
また,周囲から「テーマを変えたほうがいい」と言われることもあるかもしれません。それでも,自分がそのテーマに純粋な面白さを感じ,新しさを導き出せると信じられるなら,自分を信じて突き進んでください。
(聞き手:望月あゆ子)
たはら たつき
所属:情報通信研究機構 電磁波研究所 主任研究員
2013年京都工芸繊維大学大学院博士課程修了,博士(工学)。日本学術振興会特別研究員(DC),関西大学助教,科学技術振興機構さきがけ研究員(兼任),国立情報学研究所特任准教授を経て,2019年情報通信研究機構に入所。2021年より現職。専門は光学,ホログラフィ。英国物理学会(IOP)発行Journal of Optics誌Editorial Board。自然光デジタルホログラフィに基づく多次元光学計測技術・計測系開発に従事。
趣味:舞台鑑賞(主にミュージカル)
(月刊OPTRONICS 2026年8月号)



