【解説】文科省がロードマップ2026を公表 パワーレーザー、アト秒科学など12大型研究を選定

文部科学省は、科学技術・学術審議会の「学術研究の大型プロジェクトに関する作業部会」がまとめた「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想―ロードマップ2026―」の暫定版を公表した(ニュースリリース)。大学や研究機関が構想する大規模研究計画について、国として一定の優先度を示すもので、31件の申請から12計画を掲載した。光・フォトニクス分野では、大型パワーレーザー、アト秒レーザー、30m光学赤外線望遠鏡など、日本の光科学を支える大型研究基盤が並んだ。

ロードマップは、多額の経費と長期間を必要とする大型学術研究を戦略的、計画的に進めるため、研究者コミュニティの意向を踏まえながら計画の優先度を明らかにするものである。2010年以降、数年ごとに策定されており、今回が7回目となる。対象となるのは、おおむね5~10年程度の実施期間を持ち、数十億円から最大2000億円程度の規模となる研究計画である。

今回掲載された12計画のうち、9計画はロードマップ2023からの継続である。新規を含め、量子、レーザー、宇宙・天文、素粒子・原子核、生命科学、海洋、人文科学など幅広い分野が選ばれた。ロードマップへの掲載は、その計画への予算措置を直ちに保証するものではないが、国が大型学術研究を支援していく際の重要な判断材料となる。過去にはKAGRA、J-PARC、TMT、ハイパーカミオカンデなどがロードマップを経て大型研究プロジェクトとして推進されてきた。

光技術との関係で特に注目されるのが、大阪大学レーザー科学研究所を中核機関とする「多様な知が活躍できるパワーレーザー国際共創プラットフォーム:J-EPoCH計画―超高圧極限状態の固体・プラズマ科学のフロンティア―」である。量子科学技術研究開発機構、東北大学、東京大学、電気通信大学、京都大学、理化学研究所、九州大学などが連携し、世界に先駆けた高繰り返し大型パワーレーザーと国際共同利用拠点の構築を目指す。

J-EPoCHでは、高出力励起光源、レーザー増幅媒質、ビームレット、増幅器、波長変換など、大型レーザーを構成する基盤技術を段階的に開発する。高繰り返し化は、従来の大型レーザー科学を大きく変える可能性を持つ。実験回数を飛躍的に増加させることでデータの統計性を高めるだけでなく、AIや自動計測と組み合わせた新しい実験手法、さらには産業利用につながるレーザー技術の創出も期待される。

計画では、テラパスカル領域の超高圧下における固体物質科学や、さらに高い圧力となるペタパスカル領域のプラズマ科学を開拓する。高エネルギー密度科学を中心として、エネルギー創出、同位体生成、極限状態における物質科学などへ研究領域を広げる構想である。総事業費は395億8200万円を見込み、このうち施設・設備費として327億円を計上する。大型レーザーそのものを研究設備として整備するだけでなく、国内のレーザー研究機関を結ぶ共創基盤として位置付けている点が特徴である。

東京大学の「アト秒レーザー科学研究施設」も継続掲載された。東京大学柏キャンパスⅡに共用施設「Attosecond Laser Facility(ALFA)」を整備し、国内で蓄積されてきた超短パルスレーザー技術と軟X線領域のアト秒パルス発生技術を基盤に、最先端のアト秒レーザービームラインと計測機器群を国内外の研究者に提供する計画である。

アト秒は10のマイナス18乗秒という極めて短い時間領域であり、電子の運動を直接追跡できる時間スケールである。計画では複数のレーザービームラインに加え、集光光学系や計測装置を整備し、物理、化学だけでなく生命科学や医学まで利用分野を広げる。産学官の共同研究によってレーザー光源、集光光学系、計測システムを継続的に高度化し、その成果を共用施設へ導入していく構想となっている。

天文学では、自然科学研究機構国立天文台の「30m光学赤外線望遠鏡計画TMT」が継続掲載された。口径30mの巨大光学赤外線望遠鏡をハワイ島マウナケアに建設し、地球型系外惑星、宇宙最初期の星や銀河などを観測する国際プロジェクトである。日本は望遠鏡本体や制御系、分割主鏡、観測装置など重要部分を担当する計画で、日本負担分の総額は535億4300万円とされている。すばる望遠鏡による広域観測とTMTによる高感度、高空間分解能観測を組み合わせることも、日本独自の観測戦略として位置付けられている。

このほか、CTA国際宇宙ガンマ線天文台を発展させる「CTAO国際宇宙ガンマ線天文台」、量子技術と半導体技術を融合する「量子半導体スピンテグレーションと連携ネットワーク拠点」、高エネルギー加速器やニュートリノ観測に関する計画など、先端計測や光学技術と密接に関係する大型研究が多数含まれる。

ロードマップ2026を見ると、光技術が単独の研究分野にとどまらず、極限物質科学、量子科学、宇宙・天文学、高エネルギー物理、生命科学などを支える研究基盤へと広がっていることが分かる。特に大型レーザーやアト秒光源では、光源そのものの高性能化に加え、集光光学、波長変換、精密計測、検出器、データ処理など幅広い技術が必要となる。大型学術プロジェクトの推進は、学術成果だけでなく、国内の光学・レーザー関連産業に新たな技術需要を生み出す可能性もある。今後、ロードマップ掲載計画がどのように具体的な予算や施設整備へ結び付いていくかが注目される。(編集部 林 諭子)

キーワード:

関連記事

  • Lumibird、Cilas株を売却しレーザー・メガジュール保守事業を取得

    仏Lumibirdは、Cilasおよび同社株主との間で、戦略的レーザー技術分野における包括的な契約を締結したと発表した(ニュースリリース)。契約には、Lumibirdが保有するCilas株式の売却、両社の長期的な産業協力…

    2026.08.06
  • 浜松ホトニクス、世界最高クラスの2.0kWレーザーダイオードバーを開発

    浜松ホトニクスは、幅1cmのレーザーダイオード(LD)バーから室温で2.0kWの擬似連続波(QCW)出力を実現したと発表した(ニュースリリース)。同社によると、これは世界最高クラスの出力記録となるとしている。 LDバーは…

    2026.06.12
  • 阪大、メガワット級レーザーで3,000超の光渦同時生成に成功 大規模光制御技術に道

    大阪大学レーザー科学研究所・准教授の中田芳樹氏らの研究グループは、光の波面が渦状に進む「光渦」を3,070個同時に整列させた大規模光渦アレイを、メガワット級の高出力で生成したと発表した(ニュースリリース)。 光渦は軌道角…

    2026.04.28
  • 京大・竹内繁樹氏が文科大臣表彰を受賞、量子もつれ光による光量子センシングで評価

    文部科学省は2026年4月、「令和8年度科学技術分野の文部科学大臣表彰」の受賞者を発表した。このうち科学技術賞(研究部門)において、京都大学大学院工学研究科・教授の竹内繁樹氏が受賞した(ニュースリリース)。 同表彰は、科…

    2026.04.17
  • 浜松ホトニクス、内部加工型レーザダイシング技術で文科大臣表彰を受賞

    浜松ホトニクス、内部加工型レーザダイシング技術で文科大臣表彰を受賞

    浜松ホトニクスは、令和8年度「科学技術分野の文部科学大臣表彰(科学技術賞・開発部門)」において、「内部加工型レーザダイシング技術の開発」で受賞したと発表した(ニュースリリース)。 同表彰は、社会経済や国民生活の発展に寄与…

    2026.04.17

新着ニュース

人気記事

編集部おすすめ

  • オプトキャリア