超小型衛星搭載に向けたハイパースペクトルカメラの小型化と軌道上観測

3.2 6U級超小型衛星「AE2a」による観測例

さらに,空間分解能を向上させたLVBPF型ハイパースペクトルカメラを,アークエッジ・スペースがNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助事業の一環として開発した6U級超小型衛星「AE2a」(図5)に搭載し,2025年6月24日にSpaceX Falcon 9(Transporter-14)によって軌道投入され,観測試験に成功した。本研究で開発したLVBPF型ハイパースペクトルカメラは,市販の産業用レンズを利用しており,レンズ交換するのみで地上分解能などの光学性能を柔軟に変更可能な設計となっている。このため,観測対象やミッション条件に応じて仕様を容易に最適化できるという特長を有する。AE2aに搭載されたハイパースペクトルカメラは,重量は約270 gと小型軽量でありながら,長焦点レンズを用いることにより,軌道高度約580~590 kmにおいて,地上分解能約20 m/pixelの可視近赤外ハイパースペクトル観測を実現している。観測波長範囲は440~880 nmであり,89バンド,12 bitダイナミックレンジのハイパースペクトルデータの取得が可能である。軌道上での試験電波による観測の結果,取得したハイパースペクトルデータ(図6)からは,植生域,裸地,水域などの分光特性が明瞭に抽出されており,植生分布や地表面状態の把握を目的とした解析が可能であることが示された。

図5 ハイパースペクトルカメラを搭載した超小型衛星「AE2a」の外観
図5 ハイパースペクトルカメラを搭載した超小型衛星「AE2a」の外観
図6 AE2a搭載ハイパースペクトルカメラの観測例2025年10月21日(UTC)観測,ブラジル周辺
図6 AE2a搭載ハイパースペクトルカメラの観測例
2025年10月21日(UTC)観測,ブラジル周辺

4. おわりに

本稿では,超小型衛星に搭載可能なハイパースペクトルカメラ技術について述べた。本研究で開発したLVBPF型ハイパースペクトルカメラは,衛星への搭載を容易にする小型・軽量構成を実現するとともに,市販の産業用レンズおよび産業用カメラを用いることで,観測仕様を柔軟に設計変更できる特長を有している。本構成では,同一の分光フィルタを用いたまま,異なる焦点距離や視野角を設定することが可能である。さらに,フィルタ交換も容易なため,将来的には赤外域への波長拡張にも対応可能な高い拡張性を備えている。これらの成果は,超小型衛星・キューブサットによる高性能な地球観測の可能性を大きく広げ,今後の実用化を促進することが期待される。

参考文献
1)Yoshihide Aoyanagi, Takeshi Matsumoto, Toshihiro Obata, Shinichi Nakasuka, Design of 3U-CubeSat Bus Based on TRICOM Experience to Improve Versatility and Easiness of AIT, Transactions of the Japan society for aeronautical and space sciences, aerospace technology Japan, 2021, vol. 19, Issue 2, pp. 252-258 (2021).
2)S. Kaiser et al., “Compact prism spectrometer of pushbroom type for hyperspectral imaging” Proceedings of SPIE-The International Society for Optical Engineering, 7100, 710014 (2008).
3)Y. Aoyanagi, On-orbit demonstration of a linear variable band-pass filter based miniaturized hyperspectral camera for CubeSats, J. Appl. Remote Sens. 18 (4), 044512 (2024).
4)Yoshihide Aoyanagi, Tomofumi Doi, Hajime Arai, Yoshihisa Shimada, Masakazu Yasuda, Takahiro Yamazaki, Hiroshi Sawazaki, On-Orbit Performance and Hyperspectral Data Processing of the TIRSAT CubeSat Mission. Remote Sens. 2025, 17, 1903.

■Miniaturization and On-Orbit Demonstration of a Hyperspectral Camera for CubeSats
■Yoshihide Aoyanagi
■University of Fukui, Headquarters for Innovative Society-Academia Cooperation Associate Professor

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