地球と人工知能を繋ぐ光ファイバーセンサー

著者:光産業創成大学院大学 林 寧生

1. はじめに

2026年3月,まだ寒さの続く季節の仕事帰り,電車の中で無意識に開くソーシャルネットワークサービス(SNS)。そのコンテンツは人が作っている。生成AI動画も人が指示を行っている。生成動画は連続性を有するが,この現実世界の連続性はそれをはるかに凌駕する。本来,人はこの精密に動作する自然の中で生きてきた。しかし,近代化にともないその自然の視点を意識することが薄れ,人の思考に偏りが生じ,それが多様な形で噴出している1〜3)。それに対して,自然環境を積極的に考慮した包括的な人工知能であるアンビエント・エージェントが提案されている4)。アンビエント・エージェントへの環境入力情報を取得するセンサーとして想定されているセンサーは,電気センサーである4)。電気センサーは情報利用率がほぼ100%であり,得たい情報のみを高効率で取得できるという利点を有するが,一方で,基本的に耐電磁性や防爆性が低いという不利点もある。また,電気センサーを1000個設置する場合,リード線は2000本必要になり設置に大変な手間がかかる。アンビエント・エージェント用に町全体のデータを取得しようとした場合,その運用はかなり困難を極めることが予想される。このような点を解消できるセンサーとして光ファイバー分布型センサーがある5〜16)。これは,光ファイバーをセンサーとして用いて,光ファイバーの任意の点に印加されたひずみ5)/温度6〜9)/音響インピーダンス10〜15)を分布的に測定することが可能なセンサーである。広域(数10 km~100 km)を細かく(数100~数10000 ポイント)測定することができる。また,センサー部分にガラス(最大耐歪:5%)ではなく塑性変形可能なポリマーファイバー(最大耐歪:60%)16)も使用可能である。この分布型センサーは,橋・海底の地震観測・道路の交通量分布センシング・自動運転への応用研究に使用されている。将来的にアンビエント・エージェントと光ファイバー分布型センサーを組わせることで街・地球内部・インフラにAIの内部神経を構築し,地球と人工知能が一つになれると予想される。

この光ファイバー分布型センサーには見逃されているフロンティアが存在する。それは,取得したデータ(RAWデータ)のほとんどが途中計算で使用されるだけでそれ以上活用されない点である。例えば,被測定物の物理量と距離のグラフが計算された場合,それに用いたRAWデータは単に保存しておくだけかまたは消去されてしまう。具体例として一般的な分布測定系の一つであるコヒーレント時間領域反射計(COTDR)を使用する場合を想定すると,RAWデータ(セグメントデータポイント数:1024点,取得セグメント数:300,データ深さ:8 bit(256))のデータ量(1024×300×256 =78643200)と計算によって得られた分布データの情報量(センシングポイント数(=測定長:400 m/分解能1 m)が400で平均回数が10回の場合,400×300×256/10 = 3072000)の比は,26分の1(4%)である。つまり,96%の情報は計算後に活用されていない。これらのRAWデータは実はとても貴重である。これらのRAWデータは,レイリー散乱を含み,このレイリー散乱は畳み込み積分がなされている17)。この計算をGPU等で行った場合,多くの電力を消費する17)。また入力光の強度を強めた場合,非線形増幅の効果も含まれる18)。特にポンププローブ法を用いた場合,前方ブリルアン散乱が後方ブリルアン散乱にカップリングし後方散乱全体にその影響が及ぶこと19)やその共振による増強手法20)について報告がある。情報分野におけるアテンション機構や学習モデルに類似した計算機能群が光ファイバー中にあると解釈できる。

一方で,アテンション機構を導入した画像生成モデルの一つであるPIXART-∑は入力画像データの容量が大幅に改良されており,HD,4K,8Kのノイズ画像データを入力することが可能となっている21)。しかし,この画像生成モデルは,分布測定システムのデータに対して適用された報告はない。

そこで,本論では,アンビエント・エージェントへの情報提供を念頭に置いた,連続性を有する実世界の物理量(温度)により重みづけされた光ファイバーセンサー中の畳み込み計算がなされたレイリー散乱を含むRAWデータ情報をPIXART-∑の初期ノイズ画像として入力し,誰が見ても分かる画像群(動画)にする研究についてご報告する。

2. 原理

COTDRでは,オシロスコープからの取得情報をヒルベルト変換し,瞬時位相データと振幅データに分ける。次に瞬時位相データを時間方向に対して単方向アンラップし,光ファイバーの光路長の変化を計算する。その光路長の変化に対して,温度係数をかけて温度分布を算出する。光−電気変換部分でヒルベルト変換をアナログ計算するCOTDRも存在するため,本論では,アンラップしていない瞬時位相データをRAWデータとみなす。

関連記事

  • 安定な有機光触媒を利用した光触媒反応の開発

    1. はじめに 近年の地球環境問題への関心の高まりから,有機合成化学分野においても環境に配慮したものづくりが注目されている。特に最近では,クリーンなエネルギー源である可視光を活用したフォトレドックス触媒反応が精力的に研究…

    2026.02.12
  • フォトサーマルナノポアによる単一分子レベルでのラベルフリータンパク質構造ダイナミクス解析技術

    1. 背景 タンパク質の三次元構造は,生命現象の根幹を支える重要な要素である。X線回折を用いて立体構造解析が報告されて以来,核磁気共鳴分光法やクライオ電子顕微鏡,質量分析など,多様な実験技術が開発され,タンパク質の構造と…

    2026.01.13
  • 超低電圧で発光する青色有機EL素子の開発

    1. はじめに 有機発光ダイード(OLED),つまり有機ELは色鮮やかな映像を映し出せることから,スマートフォンや大画面テレビなどに使われ既に市販されている。さらに近年ではVRゴーグルのプロジェクターや,PC画面,車載用…

    2025.12.10
  • イベントベース計算撮像による光沢・透明物の外観検査

    1. はじめに 製造業における重要課題の一つは,光沢・透明物の外観検査である。外観検査とは製品外観にキズや汚れ,欠けなどの異常がないかを確認し,品質を保証する検査のことである。近年の深層学習ベースの画像認識の発展に伴い,…

    2025.11.10
  • 放射光顕微メスバウアー分光装置の開発

    1. はじめに 鉄は,我々の生活に欠かすことのできない材料である。建築物の骨組みや自動車に使用される鉄鋼材,モーターやハードディスクに用いられる磁性材料,さらには塗料や工芸品の素材として利用される酸化鉄など,鉄は多様な分…

    2025.10.14

新着ニュース

人気記事

編集部おすすめ

  • オプトキャリア