東京大学と日本電子は、光格子時計の測定の空白時間(デッドタイム)をなくすために、極低温ストロンチウム原子を絶えず供給して分光する方法を開発した(ニュースリリース)。

光格子時計は、多数の原子の共鳴周波数を基準に時を測る、最も正確な時計のひとつとなっている。従来の光格子時計では、原子の冷却、状態準備、時計遷移の励起、状態検出を順番に繰り返す。このうち、原子が時計レーザーの周波数を測っていない空白時間を「デッドタイム」と呼ぶ。デッドタイムがあると、時計レーザーの周波数揺らぎの一部を捉えられず、時計の安定度が低下する。デッドタイムをなくす「ゼロデッドタイム動作」を実現するには、冷却した原子を絶えず供給しながら、原子の準備、時計遷移の励起、状態検出を同時並行で進める必要がある。
研究グループは、極低温のストロンチウム原子を移動光格子に閉じ込め、連続的に輸送した。また、流れる原子を高精度に分光するため、時計レーザーを原子流に沿って照射する「縦励起」を採用。原子を光格子に強く閉じ込めるラム・ディッケ束縛によって、縦励起でも速度分布によるドップラー広がりを抑えられる。さらに、局所的に磁場を加えた領域だけで時計遷移を起こし、相互作用を時間ではなく場所で区切った。これにより、上流での原子準備、中央での時計遷移の励起、下流での状態検出を、異なる原子に対して同時に行なうことができる。
原子の位置がレーザーとの相互作用時間に対応することを利用し、基底状態と励起状態の間を行き来するラビ振動を空間的な縞模様として直接可視化した。

さらに、原子を供給し続けた状態で時計遷移を測定した。原子は長さ12ミリメートルの励起領域を秒速16ミリメートルで通過し、0.75秒間、時計レーザーと相互作用する。この有限の相互作用時間から決まるフーリエ限界に近い、半値全幅1.2ヘルツのスペクトルを得た。

この成果は、冷却した原子を絶えず供給しながら、高い分解能で時計遷移を測定できることを示した。原子の準備、時計遷移の励起、状態検出を流路上で同時進行させることで、ゼロデッドタイム動作への道が開かれる。この動作が実現すれば、原子が時計レーザーの周波数を絶えず測り、その揺らぎを連続的に補正が可能になる。その結果、短い測定時間で安定した計測ができるだけでなく、レーザー自身を安定に保つための大型で精密な装置への依存を減らすことができ、光格子時計の小型化につながるという。今後、光格子時計のフィールド運用を広げ、重力場や地殻変動などを高精度に捉えるセンシングへの応用が期待されるとしている。



