NICT、蛍光顕微鏡の観察精度を高める技術を開発 生きた細胞の内部構造をより鮮明に観測

情報通信研究機構(NICT)、京都大学、宇都宮大学は、バイオ研究の基盤技術である蛍光顕微鏡による観察精度を高める技術を開発した(ニュースリリース)。

センシング技術の中でも、蛍光顕微鏡のような可視化技術は情報量が多く、広く使用されており、特に重要な技術となっている。生物の機能は光の波長の10分の1程度の小さな分子複合体などが担っているため、非常に小さな世界を可視化する必要があるが、細胞の中は場所によって光の通り方が少しずつ違うため、画像がにじんだり、光の量が低下したりして、本来の姿が見えにくくなることがあった。

このような光の乱れを直す技術として、天体望遠鏡や宇宙通信などで使用されている補償光学という技術がある。地表では気流が揺らいでいるため、宇宙の星の像はぼやけてしまうが、補償光学により空気の揺らぎ効果を取り除くと、地上にある望遠鏡でもまるで宇宙にいるかのように天体を観察できる。補償光学の方法は顕微鏡にも導入されてきたが、特殊な装置や複雑な調整が必要で、誰もが簡単に使えるわけではなかった。

研究グループは、補償光学と同様な補正を行うことができる計算法を発見し、撮影後の画像をコンピュータ上で処理するだけで光学的なにじみやゆがみを自動で取り除き、鮮明さを取り戻す新手法「øCAO(ファイカオ)」を開発した。特別なハードウェアの追加などの高価な装置改造なしで使え、厚みのある試料でも細かな構造を見やすくできる。その結果、蛍光顕微鏡では従来は見えにくかった生きた細胞の内部構造や細胞組織の深部をより鮮明に観察できた。

(図)蛍光ビーズの蛍光顕微鏡画像の比較(通常とøCAOで補正)
本来は点光源だが、植物組織を通過したことによって乱れてしまった蛍光ビーズ画像(左)を、開発したøCAOにより光のゆがみを取り除き、本来の点光源に復元させた(右)。

また、近年開発された超解像顕微鏡法では、光の回折限界(光の波長のおよそ半分)より更に小さい構造も観察することができるが、非常に精密な光学系を必要としているため、分解能が大きく低下したり、本来存在しない模様が現れるなど、正しい微細構造を観察することが困難であった。研究グループは、øCAOを超解像顕微鏡法の一種である3D構造化照明顕微鏡法(3D-SIM)という方法にも応用し、光の揺らぎで低下してしまった分解能を回復させて、鮮明な画像を得ることを可能にした。

(図)細胞骨格の繊維の超解像顕微鏡画像の比較(通常とøCAOで補正)
光の乱れにより分解能が低下し、影のような模様が生じている超解像顕微鏡画像(左)を、開発したøCAOにより光のゆがみを取り除いたことで細胞内の繊維構造が鮮明になった(右)。

以上の研究開発により、細胞内部の微細構造をより鮮明に観察でき、病気の原因となる細胞内の異常を正確に把握できるため、病気の原因解明や創薬研究の加速、再生医療・バイオ産業の高度化に寄与し、既存の蛍光顕微鏡の性能を最大限に発揮できるようになるため、研究コストの低減と高度な研究技術の普及にもつながるとしている。

今後は、øCAOを、異なる超解像顕微鏡や更に深部を観察できる2光子顕微鏡などにも応用して、利用範囲を拡大させていく予定だという。これにより、生命科学に関わる基礎・応用研究を推進するとともに、生物体の情報を読み出すセンシング技術の精度を更に向上させていくとしている。

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