3. 基板界面の制御:自己組織化によるp-i一括成膜
PSCの逆構造型(p-i-n型)において,近年主流となっているのが自己組織化材料(SAM)を正孔輸送層に用いる手法である9)。このSAMをペロブスカイト前駆体溶液に添加すると成膜過程でこの分子が基板側へ拡散し,透明導電膜と結合して「自己組織的」に正孔輸送層を形成する事が報告されている10, 11)。このSAMとしてはホスホン酸などの結合基を一つ持つ単脚型が主流であり,ホスホン酸基を複数持つ多脚型(3PATAT-C3)12)はp-i一括成膜には適さないとされていた13)。しかし,筆者らが開発したルイス塩基を添加する成膜手法では,従来とは異なる結果が得られた。一定電圧印加時の光出力の時間応答から算出する光安定化出力(SPO)を測定したところ,3PATAT-C3正孔輸送層を別途成膜する順次成膜ではSPOが16.1%に対して,3PATAT-C3をPbI2に対して0.23 mol%で添加したp-i一括成膜素子ではSPO 19.7%(図3)と有意に高い14)。

この性能向上のメカニズムは次のように推定される。本手法では,ペロブスカイト層の大粒径化・高結晶化を目的として,Pb2+と相互作用するルイス塩基TSCを10 mol%加えている。このTSCの働きにより,ごく微量な3PATAT-C3とPbI2との相互作用が抑制される。その結果,成膜中に3PATAT-C3が基板側へ拡散して,自己組織化膜を形成すると共に,基板側に拡散しなかった3PATAT-C3もペロブスカイト結晶の界面欠陥を効果的にパッシベーション(不動態化)し,非発光再結合を抑制した為と考えられる。
4. 膜表面の制御:自己偏析を利用したi-n一括成膜
次に,ペロブスカイト層の上部に電子輸送層(ETL)を同時に形成するi-n一括成膜の確立に取り組んだ。ここでは,「表面偏析現象」を活用する。n型有機半導体材料であるPCBM(フラーレン誘導体)や非フラーレン受容体(NFA)を前駆体溶液に添加し,成膜過程でこれらを表面に浮き上がらせる戦略である(図4)。

しかし一般的にPCBMのような非極性材料は,ペロブスカイトの主溶媒であるDMF(極性溶媒)にはほとんど溶解しない。そこで筆者らは,非極性溶媒であるクロロベンゼン(CB)15)と高沸点溶媒であるCHPを最適比率で組み合わせた独自の「3混合溶媒系」を開発した。この溶媒系により,PCBMを均一に混和させつつ,乾燥過程で自発的に表面へ偏析させることに成功した。X線光電子分光法(XPS)による深さ方向分析では,NFAやPCBMが表面から数nmの極薄領域に集中して存在していることが確認された。デバイス特性については,順次成膜のSPO 18.3%には及ばないものの,i-n一括成膜で14.5%のSPOを達成した。これは電子輸送材料を添加していない対照素子(5.5%)を遥かに上回る結果である(図5)。以上の成果は,i-n一括成膜による極薄層であっても,電子輸送層として十分に機能することを裏付けるものである。




