3. 薄膜成長法の進展
金属性デラフォサイトをデバイスに利用するには,薄膜化が不可欠である。これまでの研究は主にバルク単結晶を対象としていたが,近年,パルスレーザー堆積法(PLD)4, 20),分子線エピタキシー(MBE)5, 6, 11),スパッタ法12, 21, 22)などによる薄膜成長が進展している。筆者らは当初,PdCoO2とPdOxを交互にアブレーションするPLD法により,c軸配向したPdCoO2薄膜を作製した4)。PdCoO2のc軸長は約1.77 nmであり,その中にPd層とCoO2層が三層ずつ含まれる。さらに最近,筆者らはPd-Co合金ターゲットを用いた反応性スパッタ法により,PdCoO2薄膜を作製できることを実証した12)。図2に示すように,2インチのAl2O3ウエハ全面にPdCoO2薄膜を形成できている。
![図2 スパッタ法により作製した2インチPdCoO2/Al2O3ウエハ Pd-Co合金ターゲットを用いた反応性スパッタ法により,2インチAl2O3ウエハ上にPdCoO2薄膜を成膜した例。金属性デラフォサイト薄膜のウエハスケール成膜に向けた重要な進展である。[Reprinted from Appl. Phys. Lett. 126, 221902(2025), with the permission of AIP Publishing]](https://optronics-media.com/kijbyuj/wp-content/uploads/2026/06/2607wakate_02-1024x535.jpg)
Pd-Co合金ターゲットを用いた反応性スパッタ法により,2インチAl2O3ウエハ上にPdCoO2薄膜を成膜した例。金属性デラフォサイト薄膜のウエハスケール成膜に向けた重要な進展である。[Reprinted from Appl. Phys. Lett. 126, 221902(2025), with the permission of AIP Publishing]
図3にPdCoO2薄膜の断面HAADF-STEM像を示す。Al2O3基板上に層状構造が明瞭に形成され,Pd層とCoO2層が原子スケールで積層している様子が確認できる。拡大像では,重いPd原子列が明るく観察され,結晶の周期性が膜厚方向に保たれていることが分かる。従来のPLDやMBEは高品質膜の作製に適している一方,産業応用を考えると成膜面積やスループットが課題となる。スパッタ法は既存の薄膜プロセスとの親和性が高く,ウエハスケール化に向けた重要な一歩である。
![図3 PdCoO2薄膜の断面HAADF-STEM像 Al2O3基板上に成長したPdCoO2薄膜の断面構造。明るく観察されるPd層とCoO2層がc軸方向に周期的に積層しており,デラフォサイト型の層状結晶構造が薄膜中で形成されていることが分かる。[Reprinted from Appl. Phys. Lett. 126, 221902(2025), with the permission of AIP Publishing]](https://optronics-media.com/kijbyuj/wp-content/uploads/2026/06/2607wakate_03-1024x605.jpg)
Al2O3基板上に成長したPdCoO2薄膜の断面構造。明るく観察されるPd層とCoO2層がc軸方向に周期的に積層しており,デラフォサイト型の層状結晶構造が薄膜中で形成されていることが分かる。[Reprinted from Appl. Phys. Lett. 126, 221902(2025), with the permission of AIP Publishing]
特に,Pd-Co合金を均一化したターゲットを用いることで,不純物相の少ないc軸配向膜が得られる。PdCoO2では,Pdが珍しい一価状態をとるため,成長中にPdとCoが適切な比率で供給されることが重要である。合金ターゲットを用いた反応性スパッタは,この局所的な組成均一性を確保しやすい。実際に,スパッタ膜では明瞭なX線回折ピーク,層状の結晶構造,約4 µΩcmの室温抵抗率が得られており,2インチウエハ上での成膜も可能になった12)。
薄膜表面には,デラフォサイト構造に由来する三角形状ドメインが観察される。平坦なテラス間の段差はPd層間隔に対応し,原子層レベルで成長が進行していることを示している12)。このような平坦性により,膜厚数nmの極薄膜でも比較的高い導電性が維持される点は,透明電極応用において重要である。導電性を確保しつつも,薄くして透明性を上げることができるからである。



