タムロン、MIMメタサーフェス近赤外光源を実用化

タムロンは、大阪大学教授の髙原淳一氏との共同研究により、チップ型の次世代光源「MIM(金属-絶縁体-金属)構造を用いたメタサーフェス近赤外光源」の実用化に成功した。タムロンによれば、MIM構造を用いたメタサーフェス近赤外光源の実用化は世界初だという。同社はこの技術について、7月3日に開催された「赤外線アレイセンサフォーラム2026」で講演および展示を行なった。また、2026年秋からコマーシャルサンプルの提供を開始する予定である(ニュースリリース)。

(画像)チップ型「MIM構造を用いたメタサーフェス近赤外光源」

近赤外線は、物質を透過しやすく、水や有機物など特定の成分に吸収されやすい性質を持つ。このため、水分、糖度、脂質などの分析に用いられ、対象物を壊さずに成分や状態を調べる非破壊検査への応用が期待されている。一方、従来の分析・検査装置で使われるランプなどの光源は、不要な波長の光まで放出することによるエネルギーロスや発熱が課題となっていた。さらに、その熱を逃がすための冷却機構が必要となり、装置の大型化につながっていた。

今回実用化したMIM構造を用いたメタサーフェス近赤外光源は、金属、絶縁体、金属の三層構造を基本単位とする波長選択熱放射体である。光の波長より小さな微細構造を用いることで、必要な波長の近赤外光を効率よく放射できる。薄型・軽量であることに加え、省電力化や装置の小型化にも寄与するため、分光分析用光源の次世代技術として研究開発が進められてきた。

ただし、実用化には熱の問題があった。高い放射強度を得るためには発光体を数百度以上の高温にする必要があるが、高温下では素材の熱膨張差による膜の剥離や、原子の相互拡散などの熱的劣化が生じ、構造が壊れてしまうことが課題となっていた。

タムロンは、ガラスモールドレンズや薄膜の製造で培ってきた素材選定の知見、熱処理、熱マネジメント技術を応用し、構造劣化を回避する独自技術を開発した。今回のブレークスルーは、特定の一要素だけにあるのではなく、MIM構造、材料、薄膜、熱処理、熱マネジメントなど複数の技術を実用に耐える水準で統合するための調整にあった。研究段階で成立していた原理を、安定して使える光源としてまとめ上げた点に意義がある。

公表されている代表値では、駆動方法は直流電源、定電流制御で、発光体の使用温度は400℃から800℃。発光体500℃時の消費電力は1.5Wで、500℃での連続発光時の寿命は1,000時間以上としている。また、発光体を局所加熱した場合でも、デバイス表面温度は弱空冷時で50℃、無冷却時で85℃に抑えられるという。

この光源の実用化により、これまで大型で持ち運びが難しかった分析・検査用の近赤外光源装置を、携行可能なハンディサイズへ小型化できる可能性がある。タムロンは、肌状態や血流の測定といった美容・ヘルスケア分野、糖度、水分、脂質などの非破壊測定を行なう食品・農業・漁業分野、さらに建造物などの構造劣化診断といったインフラ検知まで、幅広い分野での応用を見込んでいる。

なかでも同社が早期の実用化分野として見据えるのが美容分野である。肌の状態を非破壊で測定し、可視化する用途は、近赤外光源の小型化によるメリットが分かりやすく、店頭や施術現場、家庭用・業務用機器への組み込みなど、装置メーカーとの協業にもつながりやすい。今後は美容を起点に、農業、食品、医療、予防、ヘルスケア分野において、装置メーカーとの共同開発や機器への組み込みを進めていく考えである。

タムロンは、交換レンズをはじめとする光学製品で培った技術を基盤に、センシング技術やAI・画像処理技術を組み合わせた光学システム・サービスの展開を進めている。今回の近赤外光源は、同社が「総合光学・センシングソリューション企業」へと事業領域を広げるうえで、新たな技術の柱となる可能性を示すものだ。コマーシャルサンプルの提供を通じて、非破壊検査機器や携帯型分析装置への実装がどこまで具体化するかが注目される。

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