東京農工大学と情報通信研究機構(NICT)などの研究グループは、テラヘルツ(THz)波を約95%吸収する「スペーサーレス基板一体型メタサーフェス(SIM)吸収体」を開発した(ニュースリリース)。従来構造で必要だった絶縁体のスペーサー層をなくすことで、薄型化、軽量化、低応力化を実現した。研究成果は、学術誌「Advanced Optical Materials」に掲載され、カバー論文に選定された。

THz波は、物質を透過しやすい電波の性質と、物質の詳細な情報を取得できる光の性質を併せ持つことから、非破壊検査やセキュリティー検査、バイオ・医療診断、次世代通信などへの応用が期待されている。
熱型THz検出器の高感度化には、入射したTHz波を効率よく吸収し、熱に変換する必要がある。しかし、従来の薄い金属膜やアンテナ型吸収体では、吸収率が10~20%程度にとどまっていた。
高い吸収率を得られる金属―絶縁体―金属(MIM)型吸収体も開発されているが、金属層の間に絶縁体のスペーサー層が必要となる。このため、構造全体の厚みや重量、残留応力が増加し、厚さ1µm程度の薄膜や微細構造を持つTHz検出器への集積が難しいという課題があった。
今回、研究グループはシリコン基板にTHz波の波長より小さな凹凸を形成し、基板自体を吸収構造の一部として利用した。深さ約1µmの段差を設けた基板の上下に、それぞれ厚さ150nmのアルミニウム薄膜を形成することで、追加のスペーサー層を使わずに共振吸収機能を実現した。
電磁界シミュレーションでは、開発したSIM吸収体が最大98%以上のTHz波を吸収できることを確認した。また、金属パッチの長さや間隔、基板のエッチング深さを変更することで、吸収周波数を調整できることも示した。
試作した吸収体をTHz時間領域分光法で測定した結果、設計周波数の1.8THzにおいて約95%の吸収率を得た。測定された吸収ピークの周波数と吸収率はシミュレーション結果とよく一致し、高効率なTHz吸収体として機能することを実証した。
開発した構造は、基板表面に微細な凹凸を形成し、金属膜を成膜する比較的単純な工程で作製できる。吸収体によって追加される実質的な厚みは、数十nm程度に抑えられると見込まれている。
スペーサー層が不要なため、既存の半導体・MEMS製造工程に組み込みやすく、製造コストの低減も期待できる。研究グループは今後、SIM吸収体をMEMSボロメーターなどのTHz検出器に集積し、検出感度や応答速度、機械的安定性への効果を検証する。
さらに、吸収周波数を選択できる構造や、多帯域・広帯域構造、センサーアレイへの展開を進め、小型で高性能な次世代THz・赤外センシング基盤の実現を目指す。



