TDKは、メタオプティクスミラーを用いたスマートグラス向け網膜直接描画(Direct Retinal Projection:DRP)ディスプレイの実証に成功した(ニュースリリース)。同社によると、メタオプティクスミラーを用いたスマートグラス向けDRPディスプレイの実証は世界初。開発したミラーは厚さ150nm、可視光透過率80%で、通常のメガネレンズへの埋め込みを可能にする。

網膜直接描画は、レーザー光を網膜に直接投影して映像を表示する方式。従来は、レーザー光を網膜へ導くために曲面ミラーを目の前に配置する必要があり、自然な外観や小型化の面で課題があった。
今回開発したメタオプティクスミラーは、平面上にナノサイズの反射体を配置し、位置ごとに光の反射角を制御する。さまざまな角度から入射するレーザー光を網膜直接描画に必要な方向へ反射でき、従来の曲面ミラーを超薄型の平面構造に置き換えられる。厚さは可視光の波長よりも薄い150nmで、光干渉による虹模様の影響を抑えながら、メガネレンズへの埋め込みを可能にした。

また、映像表示に必要な光を反射しながら可視光を約80%透過する。網膜投影方式では対面する人から表示内容が見えにくいため、外観の自然さに加えてプライバシー面でも利点があるとしている。ミラーは半導体製造と同等のウエハープロセスで製造でき、量産時のコスト競争力も見込む。現在はモノカラー表示だが、数年以内にフルカラー対応の実証と量産化を目指す。
TDKはスマートグラスをAIエコシステムにおける成長分野の一つと位置付け、関連技術の取り込みを進めている。2025年6月には、スマートグラス向けのカスタムチップやカメラ、ソフトウエア、アイトラッキング技術などを手掛ける米SoftEyeを買収。2026年1月には「TDK AIsight」を立ち上げ、スマートグラス向け技術の事業化を加速している。
さらに2026年6月にはQDレーザと事業協力契約を締結した。TDKの超小型フルカラーレーザーモジュール(FCLM)と、QDレーザの網膜投影技術および特許群を組み合わせ、次世代RGB光源モジュールと光学エンジンを共同開発する。QDレーザの一部特許もTDKへ移転し、早期量産化を視野にスマートグラスメーカーへの光学エンジン供給を進める方針だ。
同年8月には、ドイツのOQmentedから知的財産やエンジニアリング技術、MEMSベースのレーザービームスキャン技術などの資産を取得した。TDKは、FCLM、MEMSミラー、アイインテント技術などと組み合わせ、スマートグラス向けディスプレイ技術の強化を進めている。
一方、TDKは電子部品を中心とするBtoB企業であり、今回の技術についても、完成品のスマートグラスそのものを製造・販売するというより、メタオプティクスミラーなどのデバイスや、RGB光源モジュール、光学エンジンとしてスマートグラスメーカーへ供給する事業を想定している。実際、QDレーザとの協業でも、次世代スマートグラスメーカーに対する光学エンジンの提供を明示している。
今回のメタオプティクスミラーも、こうした部品・モジュール事業を構成するキーデバイスの一つとなる。TDKは、光源、レーザー制御、MEMS走査、網膜投影、視線検出などの技術を組み合わせながら、完成品メーカーに向けたスマートグラス用光学デバイス・モジュールの事業化を進める。





