東京農工大学とロームは、次世代の高速通信で使用が期待されるテラヘルツ波を、51マイクロメートルの薄い人工レンズで狙った方向へ届ける技術を開発した(ニュースリリース)。
テラヘルツ波は、通信、センサ機器やイメージングへの応用が見込まれている一方、実用化するには課題がある。室温で動作する小型のテラヘルツ発振器は、装置の小型化に有利だが、一般に出力が大きくない。そのため、発振器から出た電波が広がってしまうと、遠くに届くころには弱くなってしまう。これまでは、テラヘルツ波を遠くに届けるために、シリコンなど自然材料で作られた厚みのあるレンズが使われてきた。しかし、厚いレンズは小型発振器に組み込みにくく、将来の通信機器やセンサ機器に搭載するには課題があった。

(b)独自のGRIN無偏光コリメーティングメタレンズを搭載したRTDの指向性
研究グループは、メタサーフェスを使えば、自然材料だけでは難しい性質を人工的に設計でき、発振器に載せやすい薄型のレンズを作ることができるということに着目した。テラヘルツ波の広がりを抑えるため、厚さ51マイクロメートルの独自のGRIN無偏光コリメーティングメタレンズを開発した。GRINとは、レンズの場所によって屈折率が変わる構造のこと。今回のレンズでは、外側から中心に向かって屈折率が高くなるように設計した。これにより、発振器から放射状に広がるテラヘルツ波を、正面方向に進みやすいビームに変えることができる。

開発したレンズは、シクロオレフィンポリマーという薄い樹脂基板の表と裏の両面に、91個の円形銅パターンを配置して作られている。円形銅パターンの大きさや間隔を変えることで、レンズ内の屈折率の分布を設計した。中心部では、0.312テラヘルツにおいて、屈折率6.2、反射率1.1%、透過率94.3%を実現した。これは、テラヘルツ波の進み方を大きく変えながら、反射による損失を小さく抑えられることを示している。
実験では、作製したメタレンズを共鳴トンネルダイオード(RTD)の前方10mmの位置に配置し、放射されるテラヘルツ波の向きを測定した。その結果、同レンズを用いることで、テラヘルツ波が正面方向に進み、ビームの広がりが抑えられていることを確認した。指向性は最大で4.9dB(3.1倍)向上した。

さらに、レンズを90度回転させても同様の効果が得られた。これは今回開発したレンズがテラヘルツ波の振動する向き、すなわち偏光方向に左右されにくいことを示している。偏光方向に依存するレンズでは、レンズを発振器に対して正確な角度で合わせる必要があるが、今回のレンズでは主に上下左右の位置合わせだけで機能する。そのため、実際の装置に組み込む際の調整を簡単にできる利点がある。
今回の成果は、GRIN無偏光コリメーティングメタレンズをRTDに適用し、小型のテラヘルツ発振器から鋭い指向性が得られることを実証したもの。これは、厚みのある従来レンズでは難しかった小型化・集積化に向けた重要な前進だという。今後は、RTDだけでなく各種の連続発振テラヘルツ光源への搭載や、さらに高指向性なアンテナ、光渦生成素子、Airyビーム生成素子など、さまざまな平面型光学素子への展開が期待され、6G/7G通信、センシング、イメージングなどの実用システムへの応用が見込まれるとしている。



