千葉大など、THz波でキラリティの空間分布を直接観測

千葉大学、東北大学、物質・材料研究機構は、銀の微細な円盤を重ね合わせた「モアレ型メタ表面」という人工構造体を使用し、これまで計測不可能だった物質が持つ「右ねじれ」と「左ねじれ」(キラリティ)の空間分布を、テラヘルツ波によって二次元画像として直接観測できる新しい分光イメージング技術を開発した(ニュースリリース)。

(図)テラヘルツ円偏光二色性イメージングおよび分光結果
構造の鏡像関係に対応して、右・左のキラリティ応答が反転する様子が観測される。物質内部に分布するキラリティを二次元画像として可視化できることを示している。

物質には、右回りのネジと左回りのネジのように、鏡に映した像が元の形と重ならない「キラリティ(鏡像異性)」という性質がある。このキラリティを調べる代表的な手法が「円二色性(CD)計測」であり、創薬や材料科学において広く利用されている。特にテラヘルツ波は、分子集団の振動やタンパク質の高次構造など、物質の「低エネルギー領域」の動きに敏感であるため、可視光や赤外線では見えにくい立体的な「ねじれ」構造を調べる手段として注目されている。

しかし、従来のテラヘルツ波によるCD計測は、試料全体を平均的に測定する「点測定」が主流であった。そのため試料内部に異なるキラリティが分布している場合、それぞれの信号が打ち消し合い、局所的な構造情報を取得できないという課題があった。このような背景から、キラリティの空間分布を直接見ることができる新しい計測技術の確立が求められていた。

今回の研究では、3~6テラヘルツという広い周波数帯域において、光の「右巻き」と「左巻き」を高精度に識別できる分光イメージング装置を構築した。これにより、髪の毛の太さ程度の空間分解能で、物質が持つキラリティの分布を二次元的にマッピングすることが可能となった。テラヘルツ波を用いてキラリティを高精度に撮像する技術としては世界初の成果だという。

研究チームは、キラリティ分布を検証するためのモデルとして、銀の微細な円盤を規則的に並べたシートを用いた。このシートをわずかに角度をずらして重ね合わせることで「モアレ模様」が生じる。研究では、このモアレ構造を持つメタ表面を利用することで、右回りと左回りのキラリティが複雑に混在する人工構造体を作製した。これにより、ねじれの向きや分布を人工的に設計し、テラヘルツ波による計測技術の有効性を検証した。

その結果、一枚のメタ表面の中に、右巻きの性質を示す領域と左巻きの性質を示す領域が交互に現れる様子を、二次元画像として直接可視化することに成功した。従来のように試料全体を平均的に測定する方法では、右巻きと左巻きの信号が打ち消し合ってしまうため、このような局所的な反転現象を捉えることはできなかった。

さらに、実験結果と理論解析を組み合わせることで、テラヘルツ波との相互作用は、銀円盤一つ一つの配置に由来するミクロな構造だけでなく、重ね合わせによって生じるモアレ模様というマクロな構造にも支配されていることを明らかにした。つまり、微細構造と大きな周期構造が相互に関わることで、複雑なキラリティ分布が生じる仕組みを示した。

この研究で確立したイメージングプラットフォームは、今後、2~15テラヘルツまでのさらに広い周波数帯域への拡張が期待されている。テラヘルツ波による「ねじれの可視化」は、目に見えないミクロ構造を解析する新しい基盤技術となる可能性がある。

応用分野としては、医療・創薬分野において、タンパク質の異常凝集体であるアミロイドなどの分布を可視化する新しい診断技術への展開が考えられる。また、超高速通信分野では、6Gなどの次世代通信で求められる、光のねじれを利用した高度な信号制御デバイスの評価や検査に役立つ可能性がある。さらに、新材料開発においても、量子材料やソフトマテリアル内部に生じる微細な構造のゆがみを検出し、材料特性の向上につなげる解析技術としての活用が期待されている。

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