4. 透明導電体としての位置づけ
透明導電体は,光を透過しながら電流を流す材料であり,ディスプレイ,太陽電池,発光素子,受光素子,タッチパネル,低放射窓,各種センサーなどを支える基盤材料である。求められる性能は「高い光透過率」と「低抵抗」の両立である。しかし,物理的にはこの二つの要求は競合しやすい。
現在広く用いられている透明導電膜は,ITOに代表される縮退ドープされたワイドギャップ酸化物半導体である。In2O3,SnO2,ZnOなどのバンドギャップの大きな酸化物にキャリアを導入することで,可視光吸収を抑えながら電気伝導性を得る。ITOは可視光領域で優れた透明性と電気伝導性を両立している。一方で,近赤外領域では自由キャリア吸収や反射が大きくなり,近赤外域の透明電極としては必ずしも最適ではない。
別の方法として,Au,Ag,Cuなどの金属を極薄膜化する方法がある。金属は高い導電性を持つため,十分薄くすれば透明性を得られる。しかし,膜厚を数nmまで薄くすると島状成長や不連続膜形成が起こりやすく,連続膜にならずに抵抗が大きくなる。また,薄膜化に伴う表面散乱や,高温環境での凝集・拡散も問題となる。
近年は,SrVO3やCaVO3などの強相関金属を透明導電体として利用する考え方も提案されている23)。高いキャリア濃度を持ちながら,電子相関による有効質量増大によってプラズマエネルギーを可視光より低い側へ下げ,透明性と高導電性の両立を狙うものである。透明導電体を「ドープした半導体」に限定せず,電子構造を設計した金属酸化物へ広げる考え方である。
PdCoO2やPtCoO2は,可視光全域で高透明な汎用透明導電膜というより,極めて高い面内導電性を持つ層状酸化物金属であり,極薄膜化によって赤外域で低抵抗・高透過を狙える材料である。図4にPdCoO2薄膜の透過スペクトルを示す4)。膜厚が薄くなるほど透過率は高くなり,特に1550 nm付近の近赤外領域では比較的高い透過率が得られる。一般に透明導電膜では,膜厚を薄くすると透過率は向上する一方でシート抵抗が増加する。PdCoO2薄膜では,極薄膜化しても比較的低い抵抗を保てるため,近赤外域において透明性と導電性を両立する電極材料として期待できる3, 4)。

PdCoO2/Al2O3薄膜の透過スペクトル。膜厚を薄くすることで透過率が向上し,特に1550 nm付近の近赤外(NIR)領域で比較的高い透過率が得られる。金属的な導電性を持ちながら近赤外域で透過性を示す点が特徴である。APL Mater. 6, 046107(2018)より転載。
この特徴は,例えば,赤外分光,赤外イメージング,ガスセンシング,熱画像センサー,量子カスケードレーザー,赤外フォトディテクターなどで有用と思われる。これらのデバイスでは,電極や配線が赤外光路上に配置される場合があり,電極の吸収や反射が感度,出力,S/N比,光取り出し効率を制限することがある。PdCoO2極薄膜は,「近赤外域で透明な“錆びない”金属電極」として,透明ヒーター,近赤外窓上の電極,光導波路上の電極,近赤外検出器の表面電極などへの展開が期待される。



