東京大学とマサチューセッツ工科大学は,有用な量子コンピューターの実現に欠かせない魔法状態のノイズを効率よく取り除く新しい方法を開発した。(ニュースリリース)。
従来のコンピューターは0と1のどちらかを表すビットを単位として計算を進めるのに対し,量子コンピューターは量子力学の原理で動作する量子ビットを使用する。
しかし,量子ビットはわずかなノイズの影響を受けやすく,エラーが生じやすいという性質がある。そのため,実際に役立つ量子計算を正しく行なうためには,ノイズの影響を抑えながら計算を進める誤り耐性量子計算の仕組みが欠かせない。
誤り耐性量子計算では,1つの量子ビットの情報を,たくさんの物理的な量子ビットに分散して表す量子エラー訂正符号という仕組みが使われる。量子エラー訂正符号を使うことで,もし一部の量子ビットにエラーが生じても,残りの量子ビットから元の情報を正しく復元できるようになる。
量子計算で使われる演算の中には,この量子エラー訂正符号の上で簡単に実行できるものもあれば,特別な準備が必要なものもある。特に,簡単に実行できない種類の演算は,魔法状態と呼ばれる特別な量子状態を使うことで実現される。
量子計算を行なうためには,ノイズの少ない高精度な魔法状態を用意する必要があり,そのためにあたかもアルコール濃度の低い酒を蒸留してアルコール濃度の高い酒とするように,魔法状態蒸留という処理でノイズを減らした魔法状態を作り出し,それを使って計算を進める。
誤り耐性量子計算の実現を難しくしている主な障壁のひとつが,魔法状態蒸留にかかるコストの大きさ。魔法状態蒸留では,ノイズを含んだ魔法状態を多数使って,ノイズの少ない魔法状態を準備する。このとき,ノイズの少ない魔法状態を1つ得るあたりに必要なノイズのある魔法状態の数がコストとなる。
今回の研究では,代数幾何符号と呼ばれる符号理論の手法を応用し,魔法状態蒸留を効率よく行なうための新しい量子エラー訂正符号を設計した。この符号は,魔法状態蒸留において高いエラー訂正能力とコスト効率の両方を実現し,さらにエラー訂正の処理も高速に行なえるという特長がある。
今回の手法では,新しい符号を使うことで,たった一度の蒸留で十分にノイズを除去できるようになった。この仕組みにより,どれだけノイズを減らしてもコストが一定の定数以下に抑えられる定数オーバーヘッドの魔法状態蒸留が可能なことを,初めて明らかにした。
研究グループは,今後は,この研究で提案した新しい手順を設計指針として,理論と実験の両方から実装・実現に向けた研究が進んでいくことが期待されるとしている。
