「イノベーション」や「社会実装」が叫ばれる一方で、その土台となる基礎研究が敬遠され、国家戦略である「量子技術」の足元を揺るがしている。この構造的弊害の現場を、理化学機器メーカーの視点から追った。
現在、日本の研究政策は「イノベーション」の創出を最優先課題に掲げ、「社会実装」「産学連携」「スタートアップ」といったキーワードが研究評価において重き軸となっている。しかし、その陰で、成果が出るまでに多くの時間と労力を要する「基礎研究」、特に精密な計測や装置開発といった分野は、取り組むハードルが高いと受け止められがちである。
こうした傾向は、政府が成長分野の一つに位置づける「量子」分野にも見られる。量子技術の根幹を支えるのは、極限環境下での緻密な計測だが、その現場では「研究者というインフラ」が急速に失われつつある。
日本で「売れない」最高水準の装置
大阪府枚方市に本社を置くユニソクは、極低温・超高磁場という極限環境で動作する「走査トンネル顕微鏡(STM)」を供給できる、世界でも数少ない企業である。同社の装置は、量子現象を直接観測するための不可欠なツールとして、世界のトップ研究者から高く評価されてきた。
驚くべきは、その市場動向の極端な二極化である。米国や欧州のみならず中国はじめ技術立国を目指す世界各国では、量子技術投資の拡大を背景に、極低温STMは「必要な研究インフラ」として導入が過去最大規模に達している。対照的に、日本国内では過去5年以上にわたり、装置一式の新規導入はほぼゼロ。
売り上げの中心は既存装置の部品交換に留まり、国内市場は数千万円レベルまで縮小している。世界の技術が国内で見向きもされないという、異常な事態が起きているのである。
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