2. 加工メカニズムの解明
2.1 レーザの選定と実験方法
レーザスライシングの実現には材料を透過しつつ,内部の集光部では吸収が生じるようなレーザ波長とパルス幅を持つレーザを用いる必要がある。本実験で用いる試料は光学ガラスのホウケイ酸ガラス(BK7)である。BK7は波長515 nmにおいて透過率が90%を超えており,表面では吸収を起こすことなく,レーザ光が透過する。一方で,集光点でも吸収が起きづらいため,ナノ秒レーザなどの短パルスレーザでは内部加工は難しい。そこで,超短パルスレーザを用いることで非線形光学効果により多光子吸収が生じ,エネルギ密度の高い集光部でのみ吸収が起こり加工可能となる。
加工実験の概要を図2に示す。ガラスに対して透過性が良く,多光子吸収を発生させやすい波長515 nm,パルス幅220 fsの超短パルスレーザを使用した。発振器から出射されたビームを焦点距離3.6 mmの対物レンズでBK7内部に集光させ,レーザを走査することによって面状に改質層を形成した。このとき,パルスレーザの照射間隔をドットピッチ(DP),レーザ走査の間隔をラインピッチ(LP)と定義する。本実験系は金型加工用の超精密加工機に搭載されており,再現性の高い実験とともに,精度の高い非球面レンズ成形も可能である。

ガラス内部の応力可視化のためには,顕微鏡型の2次元複屈折評価装置を使用した。複屈折とは,透過光の屈折率が偏光方向によって異方性を示す現象である。複屈折を持たない材料でも応力が負荷された場合,光弾性効果によって複屈折が生じるため,透過光には光路差(リタデーション)が生じる。リタデーションは,主応力差,光弾性定数,試料厚みの積で表すことができるため,リタデーションの測定により主応力差とその方向を測定することが可能となる。
2.2 1ライン加工による応力分布
ガラス内部に1ラインの改質層を形成し,その断面方向からリタデーションを測定した。結果を図3に示す。長さ100 µm,幅200~300 nm程度の縦長の改質層上部で局所的な残留応力が生じており,強い圧縮残留応力を発生する改質層を中心にして引張残留応力が左右対称の羽のように周囲に広がっていることがわかった。ガラス材料は,ガラス転移点を超える温度が加わると急激に体積膨張し,そこから急冷されることにより,体積膨張を維持したまま固化する性質がある。超短パルスレーザが材料内部に照射されると,焦点付近では急激な温度上昇が生じるとともに,周囲への熱拡散が瞬時に始まり,急冷状態となると考えられる。したがって,改質層内部は体積膨張が外部から拘束されるため圧縮残留応力が働き,その周囲に引張残留応力が働く。この引張残留応力によってき裂が開口し,スライシングが可能となる。






