著者:埼玉大学 山田洋平
1. はじめに
ガラスレンズは,材料の均質性,透過性,耐久性に優れ,カメラや顕微鏡などの光学機器や,内視鏡などの医療機器に欠かせないものとなっている。近年では,自動運転技術やAI技術などの発展とともに,センシング用途の半導体デバイスに多くのガラスレンズが実装されるようになり,サイズ,形状,材種,加工精度など多種多様な要求が存在し,迅速かつ自由度の高い加工技術が求められている。現在,大口径ガラスレンズには研削・研磨加工法。小口径ガラスレンズには,金型を使用したガラスモールド法が一般的に用いられている。前者では高い熟練技能を必要とし,スラリーや油剤の使用により環境負荷が高い。また後者では,ガラス材種ごとの流動シミュレーションの複雑さ,難削材の金型加工技術,型の摩耗・修復など幅広い知識と技術を必要とするため,誰でも簡単に製造できるものではない。
そこで,本研究室では,迅速かつ簡便な新しいガラスレンズ成形技術として,レーザスライシング技術の応用を提案している。元々,レーザスライシング技術は,Si1)やSiC2),ダイヤモンド等の半導体結晶材料に対するスライシング技術として本研究室で開発されたものであるが,ガラスに対しても有効であることを発見した3, 4)。図1に示すように,超短パルスレーザをガラス内部に集光し,直径数百nm,長さ10~100 µm程度の微小改質部を形成していく。この改質部をパルスレーザの走査によって,材料内部に面状に並べ改質層を形成していくことで,改質層の体積膨張にともなう残留応力の蓄積によって,き裂が改質層内部を自然に伝播していき,2枚に剥離するという技術である。

本加工技術は,レーザによる非接触加工のため,工具摩耗が存在せず,切削油等を必要としない。き裂伝播による割断加工の一種であるため,切りくずが排出されない。剥離面は研磨加工なしで数nmRa以下の鏡面状態であるなどの特徴があるため,レーザ加工1工程のみで,単純なレンズ形状から,非球面レンズ,レンズアレイ等,形状自由度の高いレンズ成形が可能になる。したがって,迅速・簡便・環境にやさしい加工技術であるといえるが,詳しい加工メカニズムに関しては明らかになっておらず,レーザ照射が加工に及ぼす影響を試行錯誤的に調査する必要があった。本稿では,材料内部の応力分布の可視化を行い,超短パルスレーザがガラスの内部改質に及ぼす影響と,き裂伝播メカニズムの考察についての取り組みを紹介する。





