理化学研究所と東京大学などの国際共同研究グループは、ある時点以前と以後の観測記録を組み合わせ、光の量子状態の変化を推定する「量子状態スムージング」を実証した(ニュースリリース)。従来手法に比べ、光の量子状態をより正確に推定できることを確認した。量子コンピューターをはじめとした量子情報処理における状態の推定や評価への活用につながる成果となる。

本研究での推定対象である光共振器
一般的な信号処理では、ある時刻より後の観測記録も使い、その時刻の状態を推定する「スムージング」が用いられる。一方、量子の世界では観測自体が対象の状態に影響するため、従来の計算法をそのまま使うと、量子力学の原理と矛盾する結果が生じる場合がある。この問題を避けるために提案されたのが、観測者が得られなかった情報を確立的に推定し、量子力学の原理を満たす状態を組み合わせて結果を求める。ただし、推定の正しさを確かめるための比較基準を実験でどう求めるかが課題となっていた。

図1 光共振器の三つの推定手法
研究グループは、光を鏡の間に閉じ込める光共振器と、二つの検出器を使ってこの課題を解決した。共振器から出力される光を二つに分け、一方の検出器の記録を状態の推定に使った。もう一方の記録は推定計算には入れず、両方の記録から比較基準となる真の状態を求めるために使用した。さらに、光の損失や検出効率を精密に調べ、装置の特性を反映したモデルで解析した。
推定の対象としたのは、光の特定の成分に含まれる本質的なばらつき「量子揺らぎ」が真空状態より小さくなったスクイーズド状態だ。解析では、推定時刻までの記録を使う手法と、その後の記録も使う手法を比較した。その結果、後者では光の量子状態の時間変化をより正確に追跡でき、真の状態からのずれも小さくなった。
量子状態の混ざり具合を表す「純度」と、量子揺らぎの抑制の程度を表す「スクイージングレベル」についても、推定結果が基準となる「真の状態」に近づいた。それぞれ改善が最大となる測定条件では、真の状態との差が従来手法に比べ、純度で10.3±1.6%、スクイージングで7.6±2.6%縮まった。これは光が持つ量子的な特徴を、推定結果により忠実に反映できたことを示す。
今回実証したのは、保存した観測記録を使って過去の量子状態をより正確に推定する『量子状態スムージング』の有効性だ。今後は、測定記録を後から処理できる量子情報実験で、量子状態の評価や装置の動作解析への活用が期待される。





