理化学研究所の研究チームは、光の電場が1回振動する周期よりも短い時間幅を持つ「サブサイクルレーザー」の増幅法を開発し、光パルスのエネルギーを従来の100倍以上に高めることに成功した(ニュースリリース)。得られた光パルスの時間幅は6.7フェムト秒、エネルギーは50ミリジュール超である。極めて短いパルス幅と高いエネルギーを両立し、電子などの超高速な動きを捉える時間分解計測につながるとしている。

サブサイクルレーザーによるアト秒パルス発生の概念図
短い光パルスを使えば、速く動くものを止めたように観察できる。原子や分子の中を動き回る電子の観測には、10億分の1秒のさらに10億分の1に相当する「アト秒」単位の光パルスが用いられる。こうした超高速現象をより詳細に調べるため、さらに短く、高強度な光パルスの開発が求められている。
課題は、極めて短い光パルスを生成するために必要な広い波長帯域幅を維持しながら、光を増幅することである。研究チームは2023年、異なる種類の結晶を組み合わせて広帯域の光パルスを増幅する技術を開発した。しかし、サブサイクル光に必要な帯域の確保と高エネルギー化の両立には至っていなかった。

図1 シングルサイクル程度の光電場振動を持つレーザー光の出力エネルギー
そこで今回は、増幅の「種」となる光をつくる技術と、光の帯域幅を保ったままエネルギーを大きく増幅する技術を組合わせ、改良した。まず、レーザー光を二つの経路に分け、それぞれで異なる波長域の光を発生させた。それぞれの光の波形を整え、時間と空間を精密に合わせて重ねることで、超広帯域の「波形合成シード発生法」を開発した。
この波形合成シード発生法で生成した光を、理研独自の「異種非線形結晶・二重チャープ光パラメトリック増幅(HNC-DCOPA)法」で増幅した。二つの異なる波長域の増幅を担う非線形結晶の組み合わせを最適化し、サブサイクルに必要な波長1.2~3.2マイクロメートルの広い帯域を保ったまま、光パルスのエネルギーを増幅した。
増幅後は、波長ごとの到達時間のずれを調整し、パルスを時間的に圧縮して、時間波形を計測した。中心波長は約2.27μmで、光電場の振動周期は7.54フェムト秒である。得られたパルスの時間幅6.7フェムト秒は光の電場振動の0.88回分に相当する。
さらに研究チームは、この光を希ガスに集光させ、より波長の短い光を生む「高次高調波発生」によってアト秒光を発生させた。レーザーの電場の波形を決める「キャリアエンベロープ位相」を変化させて光スペクトルを計測した。得られた光スペクトルから求めた理論的な最短時間幅(フーリエ限界パルス幅)は35アト秒である。
今後は、光の電場の振動が約半回分の「ハーフサイクルレーザー」の高エネルギー化を目指す。これは現段階では数値計算で可能性を示したもので、実証は今後の課題となる。研究チームは、10アト秒未満の光や、さらに短いゼプト秒光の実現を見据える。将来は、原子核内部の動きを時間分解計測によって観測できる可能性がある。





