東大,3個の光パルスを扱う光量子コンピュータ開発

東京大学の研究グループは,情報を乗せた3個の光パルスで様々な計算ができる独自方式の光量子コンピュータの開発に成功した(ニュースリリース)。

研究グループは,量子ビットの情報を乗せた多数の光パルスを時間的に一列に並べ,大きなループ(メモリの役割)の中に閉じ込めた上で,その中に1個の計算回路(光量子プロセッサ)を組み込む量子コンピューターを研究している。

2021年には光量子プロセッサが完成,1個の光パルス(1量子ビット相当)に計算を行なう動作を実証した。しかし,複数個の光パルスを用いるには至っていなかった。

今回,1個の光パルスで計算が行なえる光量子プロセッサを,複数個の光パルスを蓄えるメモリの役割のループの中に組み込むことで,複数個の光パルスで計算ができる光量子コンピュータにグレードアップした。

完成した光回路全体は大きなループの中に小さなループが入れ子になった2重ループ構造であり,その2つのループそれぞれの1周の長さをナノメートル精度で同時に安定化する新しい制御技術も開発した。さらに,2重ループ回路内の4つの可変要素を光パルスの動きに時間同期しながらナノ秒精度で切り替える制御システムを開発した。

これにより,「究極の大規模光量子コンピュータ」の基本的な光回路構成が初めて完成し,複数個の光パルスに対して計算が行なえるようになった。

開発した2重ループ構造の光量子コンピュータを用いて,3個の光パルスを互いに混ぜ合わせる「線形光学変換」と呼ばれる計算処理を実証した。この処理は,複数個の光パルスに対する計算処理として最も重要なものであり,光量子コンピュータのみならず,量子通信や量子センシングなどあらゆる光量子技術に必須の要素。

これまで,光パルス数が増えるにつれて光回路が大規模化するという難点があったが,今回開発した2重ループ回路は,外側のループに光パルスを蓄えながら,内側の小さなループで可変位相シフタと透過率可変ミラーを繰り返し用いて順次光パルスを干渉させることで,この計算処理が行なえる。

この場合,外側のループを大きくするだけで,光回路の規模を変えることなく扱える光パルスの数を増やすことが可能で,高い拡張性がある。今後,より複雑な計算をする機能を追加するとともに,ループを長くして扱える光パルス数を増やしていくことで,大規模汎用光量子コンピュータへと拡張できる。

研究グループは,将来的には材料・医薬品の開発や機械学習など様々な用途に応用可能な光量子コンピュータが実現できるとしている。

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