理研ら,掛け算が可能な光量子コンピュータに一歩

理化学研究所(理研),東京大学,チェコ パラツキー大学,オーストラリア国立大学,豪ニューサウスウェールズ大学は,量子計算のための光電場の非線形測定を初めて実現した(ニュースリリース)。

光量子コンピュータでは,パルス列状に飛んで来る量子光同士の時間をずらし,複雑に干渉させた量子もつれ状態に対して,測定と測定値に基づく動的な操作(フィードフォワード)を行なうことで,量子状態の変化と補正を行ないながら計算する測定型量子計算の手法が開発されている。

これまで実現したのは非線形性のないホモダイン測定に限られていたが,光電場同士の「掛け算」には決定論的な非線形操作に相当する非線形測定が不可欠となる。

被測定光と補助的な量子光を干渉させ,得られる二つの光の片方にホモダイン測定をし,他方にはその測定結果に非線形計算を行なった値に基づき動的に位相回転操作をする,というフィードフォワードの後にホモダイン測定をすることで,非線形測定として働くという方法が考案されていたが,技術的な困難から未実現のままだった。

今回,フィードフォワード中の測定結果に対する非線形計算に,ルックアップテーブルと呼ばれる計算表を用いた。ここに事前に入出力の組が書き込んであり,入力の値をメモリのアドレスに,出力の値をメモリに記録する値に対応させることで,計算結果を1クロックサイクル(研究では約2.67ns)で読み出せる。

実際の計算は事前に行なう必要があるが,ルックアップテーブルに書き込む計算表を変えれば,計算にかかる時間を保ったまま計算の種類を変えることもできる。

測定系・制御系の入出力信号はアナログ信号のため専用のボードを作製した結果,CPUなどと比べて100倍程度の高速化となった。これにより光学系との同期が容易となり,非線形測定が実験的に可能になった。

ただし,非線形スクイーズド光を補助量子光として使用することで,非線形測定の精度を理想的な値に近づける必要がある。研究では,補助量子光として2021年に生成した近似状態と同様の量子状態を準備し,その有無による変化も観測した。

構築した実験系の評価として,27通りの強度・ランダムな位相を持つ弱いレーザー光を216万通り測定対象として入力することで,入力した光と測定結果の関係を検証した。ここから量子トモグラフィーにより,測定器を特徴づける「測定値と対応する量子状態の変化先の組」を推定できる。その結果,構築した実験系が非線形測定となっていることが実証された。

研究グループは今後,補助量子光の非線形測定の精度を高め,また異なる補助量子光と組み合わせて,誤り耐性型汎用光量子計算の実現に貢献するとしている。

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