大阪大学の研究グループは、磁気トンネル接合(MTJ)にフラッシュランプアニールを適用し、約1.7秒で実用的な性能に到達させることに成功した(ニュースリリース)。

MTJは、磁気メモリ(MRAM)や磁気センサに用いられるスピントロニクスデバイス。中でもCo-Fe-B/MgO/Co-Fe-BからなるMTJは、高いトンネル磁気抵抗(TMR)効果を示す代表的な材料系として広く用いられている。
これらのMTJでは、成膜後の熱処理によって元素拡散を伴いながら、磁性体層であるCo-Fe-B層や、トンネル障壁層であるMgO層の結晶化が進む。これにより、実用に不可欠な高い抵抗変化率が得られる。従来は熱処理炉を用い、300~500℃程度で数十分から数時間加熱することで、デバイス特性の最適化が行なわれてきた。
フラッシュランプアニールは、半導体プロセスなどで用いられてきた超高速熱処理技術。Xe(キセノン)ランプによる閃光パルス照射により、材料表面を瞬間的に高温へ加熱できる。このような超短時間の非平衡加熱は、従来の熱処理とは異なる時間スケールで材料形成を進められる可能性がある。
研究グループは今回、このフラッシュランプアニールをMTJに適用し、熱処理時間の大幅な短縮と機能発現の両立を目指した。

☆は通常の熱処理(熱処理炉)で得られた結果
実験では、ミリ秒スケールの光パルスを繰り返し照射することで、MTJ表面を瞬間的に1000℃程度まで加熱した。その結果、約1.7秒という極めて短い積算照射時間で、約100%のTMR比を得ることに成功した。従来の熱処理では数十分から数時間を要していたのに対し、同等の特性を秒単位で発現できることを示した。
さらに、透過電子顕微鏡(TEM)による断面観察から、フラッシュランプアニール後のMTJでは、MgO層との界面付近のCo-Fe-B層に結晶化が生じていることを確認した。加えて、エネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分布評価により、従来の熱処理とはB(ホウ素)の拡散挙動が異なることも明らかになった。
特にフラッシュランプアニールでは、短時間の非平衡加熱により、元素拡散が相対的に抑制された状態で結晶化が進行している可能性があるという。この結果は、フラッシュランプアニールにおいて、従来の炉加熱とは異なる結晶化および元素拡散の進行過程が現れることを示している。
研究グループは今後、NanoTerasuなどの放射光施設を用いた詳細な構造解析により、非平衡過程における結晶化と拡散の関係について、さらに理解を深めるとしている。
今回の成果により、MTJをはじめとするスピントロニクスデバイスの熱処理工程を大幅に短縮できる可能性が示された。従来、数十分から数時間を要していた熱処理を数秒程度に短縮できれば、製造プロセスのスループット向上やエネルギー消費の低減につながると期待される。
また、フラッシュランプアニールは、加熱される深さを制御できる点も特徴となる。この特性を活かすことで、従来の高温プロセスでは適用が難しかったフレキシブル基材や生体親和性材料上へのデバイス形成にも展開できる可能性がある。研究グループは、フレキシブル基材上に形成したスピン力学センサなど、新たな応用につながることが期待されるとしている。



