ネガティブ・ケイパビリティ

著者:熟成考房舎 鴫原正義

答えが見つからないときの忍耐力

近年の各種報告などを見ると、日本の創造力や知財関連の状況はあまり芳しくありませんでした。創造力や創作力をもっと向上させる必要があるでしょう。しかし、改善策はなかなか難しそうです。そこでふと思い出した言葉があります。“ネガティブ・ケイパビリティ”…すなわち、解のない状況に耐える力であり、分からないことを許容しながら耐え抜く力です。例えば、創作や発明に至るには、問題・課題を抱えながら悶々していることが結構あります。そんなときには「発散」と「収束」を繰り返すことがよいといわれます。ネガティブとアクティブの繰り返しです。…ということで今回は答えが見つかりそうにない世界に入ってしまいそうですが、それに耐えながら思考を巡らしてみましょう。

詩人ジョン・キーツの言葉から

英国のロマン主義の詩人ジョン・キーツ(1795−1821/図1(a))は25歳の若さで病死しますが、残された詩からもさらに名声を高めています。また、キーツは22歳だった1817年に2人の弟に宛てた手紙の中で、ウィリアム・シェイクスピア(1564−1616)を例に挙げて偉業を成し遂げた力を“Negative capability”と表現していました。後に英国の精神科医ウィルフレッド・ビオン(1897−1979/図1(b))がその言葉を発見し、1967年に英国精神分析協会で“Negative capability”と題した講演をしています。ジークムント・フロイト(1856−1939)の精神分析例を示しながら自身の研究を基に「私たちが苦難するのは、知識や理論の不足からではなく、多すぎる知識や理論、多すぎる光のために目がくらむからなのです。それらの知識や目がくらむような光をできるだけ排除して…」との持論を語りながら、おもむろにキーツの手紙の内容を紹介したのです。精神科医の立場から「既存の知識だけで急いで心を飽和してしまわないように…」とのメッセージでした。当時の英国の知識人なら誰もが知っているキーツです。その後、彼の言葉は世界中の専門家達に広がっていくのです。

図1 (a)ジョン・キーツの肖像画(ウィリアム・ヒルトン画/ロンドン国立肖像画ギャラリー蔵)と、(b)ウィルフレッド・ビオンの写真
図1 (a)ジョン・キーツの肖像画(ウィリアム・ヒルトン画/ロンドン国立肖像画ギャラリー蔵)と、(b)ウィルフレッド・ビオンの写真

この続きをお読みになりたい方は
読者の方はログインしてください。読者でない方はこちらのフォームから登録を行ってください。

ログインフォーム
 ログイン状態を保持する  

    新規読者登録フォーム

    関連記事

    • 新規赤外受光材料の開発に向けたMg3Sb2薄膜のエピタキシャル成長

      著者:茨城大学 坂根駿也 1. はじめに 近年,人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT),自律航行ドローン,自動運転技術などの急速な発展に伴い,多様な波長帯域における赤外受光センサーの需要が飛躍的に増大している。…

      2026.05.13
    • レーザ加工の基礎の基礎【11】 レーザ接合⑵

      著者:Laser Technology Fountain 門屋輝慶 5.7 レーザ・アークハイブリッド溶接 ハイブリッド技術は,レーザ溶接が,他の溶接法と組み合わされるプロセスを指す。組み合わされる溶接法は,MIG(メタ…

      2026.04.21
    • 2025年の特許ランキング

      著者:熟成考房舎 鴫原正義 AI関連の躍進目立つ 米国のIFI Claims Patent Servicesが毎年1月に、米国特許商標庁の公開情報を基に前年の特許取得ランキングなどを公開しています。ここでは隔年で取り上げ…

      2026.03.25
    • カシオのG-SHOCK

      著者:鴫原正義 たった1行の提案書から始まった カシオ計算機(以下カシオ)の腕時計G-SHOCKは,1983(S. 58)年に発売されて以来の累計出荷総数が昨年3月に1億5,000万個を超え,その後も次々と新モデルが発表…

      2026.03.23
    • 日本のエジソンと呼ばれた人たち

      田中久重と藤岡市助の偉大な発明と事業への展開 発明王といえばトーマス・エジソン(1847−1931)ですが,その偉大な発明王にちなんで“日本のエジソン”と呼ばれる人が何人かいます。その中でも特に有名なのが江戸~明治時代に…

      2026.02.13

    新着ニュース

    人気記事

    編集部おすすめ

    • オプトキャリア