著者:鴫原正義
たった1行の提案書から始まった
カシオ計算機(以下カシオ)の腕時計G-SHOCKは,1983(S. 58)年に発売されて以来の累計出荷総数が昨年3月に1億5,000万個を超え,その後も次々と新モデルが発表されています。腕時計はそう頻繁に購入するものではないのですが,長年にわたってこれほど元気な商品も珍しいのではないでしょうか。今回はそんな元気な商品の話題です。
G-SHOCKの開発
カシオは1946(S. 21)年に樫尾忠雄(1917−1993)が創業した樫尾製作所が源になります。リレー式の小型電気計算機の商用機が完成した1957(S. 32)年に,それぞれ違った道を歩みながらも開発に携わっていた三兄弟(俊雄・和雄・幸雄)がこの期に力を合わせようと,樫尾四兄弟で設立した企業です(図1)。企業名は“Kashio”ではなく,先端的な計算機のスピード感があり,世界にも通じるようにと,星座の“カシオペア”にちなんだ“CASIO”としたそうです。そして「創造・貢献」の企業理念からさまざまな商品を生み出してきました。その代表例がG-SHOCKといえるでしょう。落下時のショックにも耐えられるタフさをイメージした重力(Gravity)の“G”を付けたネーミングです。

写真提供:カシオ計算機株式会社
カシオは創業以来,電子式卓上計算機(1965年)やパーソナル電卓(1972年)など,電卓市場を大きく育て上げてきました。また,それ以外でもユニークな新規商品の展開を進めていました。1974(S. 49)年にカレンダー機能を搭載したデジタルウォッチ“カシオトロン”を発売します。「時間は1秒1秒の足し算である」とは四兄弟の次男俊雄(1925−2012)の持論で,時計も計算機も同じとの着想です。さらに1980(S. 55)年には電子楽器“カシオトーン”を発売します。演奏を楽しむ以前に楽器の練習には時間がかかります。カシオは「簡単な操作で演奏を楽しむ…」を目標に開発を始め,小型軽量で29種類もの楽器の音を鳴らす鍵盤型“カシオトーン201”を製品化しています。
なお,同社には独自の「新技術・新商品提案制度」があり,ある時そんな制度を利用したアイデアが担当技術者から投げかけられました。「落としても壊れない時計の開発」と書かれたたった1行だけの企画書でした。親から贈られた腕時計を落として壊してしまった経験からの提案だったそうです。
壊れない時計の開発は1981(S. 56)年に3人のグループで始まります。耐衝撃性を想定したさまざまな構造で3階の窓から落下試験を重ねて破壊モードの解析をしています。200回,300回と実験を重ね,弾性体とフレームを組み合わせ,次第に構造と形状が絞られ,更に新たなアイデアを加えていきます。時計の心臓部となるモジュールに弾性体を介して固定することで想定した衝撃力をクリアし,製品デザインやネーミングなどの検討を重ねて製品化に至るのです。
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