慶應義塾大学の研究グループは、データセンター向け短距離光通信の高速化に貢献する屈折率分布型プラスチック光ファイバー(GI POF)を開発し、次世代の1レーン212.5Gbps(ギガビット/秒)の50m伝送の実証に成功したと発表した(ニュースリリース)。
AI向けデータセンターでは、多数の演算機器間で膨大なデータを高速かつ並列にやり取りする必要があるため、それらを結ぶ通信路の性能がデータセンター全体の処理能力を大きく左右する。こうした短距離通信では、面発光レーザー(VCSEL)と石英ガラス製マルチモード光ファイバー(MMF)の組み合わせが広く用いられており、増大する通信需要に対応するため、現行の1レーン当たり106.25Gbps級から次世代の212.5Gbps級への高速化に向けた検討が世界的に進められている。
しかし、こうした高速化を進めるうえでは、光ファイバーの伝送帯域の制約が大きな課題となる。MMFの伝送帯域は、主にモード分散と材料分散によって制限される。モード分散は、光がモードごとに異なる経路を伝搬することで到達時間に差が生じる現象であり、光ファイバーのコアの屈折率分布を適切に設計することで抑制できる。一方、材料分散は、光ファイバー材料そのものが持つ屈折率の波長依存性により、波長ごとに到達時間に差が生じる。特に、短距離光通信で用いられるVCSELは複数の波長成分を含んで発光するため、スペクトル幅*1が広く、材料分散の影響を受けやすくなる。
研究グループは、これまでGI POFの研究開発を進めてきた。今回、コア内の屈折率分布を高精度に制御することでモード分散を低減するとともに、石英ガラスよりも材料分散の小さい全フッ素化ポリマーを用いることで、石英ガラス製MMFを上回る伝送帯域を示すGI POFの開発に成功した。さらに、このGI POFは、これまでKPRIが提案してきた低ノイズ特性も備えている。この特性は材料のミクロな不均一構造に由来するものであり、高品質な信号伝送を可能にする。
全フッ素化ポリマーは、VCSELの標準的な動作波長である850nm付近において、石英ガラスよりも材料分散が小さく、ゼロに近い特性を示す。この性質により、光信号の波形の広がりを抑えやすく、高速伝送に有利であると考えられる。理論計算では、全フッ素化ポリマーを用いたGI POFにおいて、屈折率分布係数gを適切に制御することで、石英ガラス製マルチモードファイバーの約1.6倍の伝送帯域が得られることが示された。これは、中心波長850nm、スペクトル幅0.60nmのVCSELを用いる条件を想定した結果となる。
さらに、周波数応答の測定によって、この優位性は実験的にも確認された。石英ガラス製マルチモードファイバーでは、VCSELのスペクトル幅が大きくなるほど周波数応答の減衰が増大し、伝送帯域が低下した。これに対し、全フッ素化ポリマーを用いたGI POFでは減衰が抑えられ、石英ガラス製マルチモードファイバーを上回る伝送帯域が得られた。


今回の研究では、GI POFと、米国Broadcom社が開発を進める次世代高速通信用VCSELを用いることで、1レーン当たり212.5Gbpsの50メートル伝送の実証に成功した。50メートル伝送後も、基準となる2メートル伝送後と比べて劣化の少ない良好な信号波形が得られた。この結果は、GI POFが次世代の212.5Gbps級通信において高い伝送性能を発揮できることを示しており、データセンターにおける短距離光通信のさらなる高速化に貢献することが期待される。

送後の波形(中)。伝送実験の条件(右)。



