日本電信電話(NTT),東京大学,情報通信研究機構(NICT)は,量子性の強い光パルスで計算できる世界初の汎用型光量子計算プラットフォームを実現した(ニュースリリース)。
近年,汎用的な計算を目指した光量子計算プラットフォームが進展しているが,これまで実現されたものは全て,線形演算のみしか行なえず,現代のコンピュータより高速に計算できなかった。
これを超えるには,プラットフォームに「非線形演算」を可能にする量子性の強い光パルスの導入が不可欠だが,量子性の強い光パルスは一般にランダムなタイミングでしか発生させられず,その発生タイミングと演算処理のタイミングを合わせる難しさが障壁だった。
研究グループは,量子ビットの光パルスを時間的に一列に並べてループ型の光回路を周回させながら,1つのプロセッサで演算処理を繰り返す方式のプロセッサを,量子性の強い光パルスの発生源と組み合わせたプラットフォームを構築した。
これには,光ファイバとの親和性の高い光通信の波長帯(1545nm)に量子性の強い光パルスを生み出す発生源が必要であり,NTTの光パラメトリック増幅器とNICTの超伝導光子検出器を組み合わせて実現に至った。
これは,光子検出器が光子を検出したタイミングでのみ光パルスを発生させるもので,発生のタイミングはランダム。発生した光パルスに対してプロセッサで演算処理を行なうためには,光パルスの発生を知らせる光子検出信号を手掛かりにして,光パルスがプロセッサに到着するタイミングとプロセッサが演算処理の動作をはじめるタイミングを一致させる必要がある。
しかし,光子検出信号を受けてからプロセッサを動作させるまでの処理時間の間にも光パルスは進み続けるため,通常はタイミングが間に合わない。そこで,長さ100mの光ファイバを挟み,光パルスの到着を遅らせることで,光パルスの到着とプロセッサの動作のタイミングを合わせることに成功した。
このプロセッサでは,もう1台のNTTの光パラメトリック増幅器で発生させた補助的な光パルスであるスクイーズド光を繰り返し入射することで,量子性の強い光パルス1個に何ステップでも線形演算を繰り返せる。
実証実験では,線形演算を種類を変えながら実行し,期待通りの演算が行なわれていることを確認した。さらに,光パルスの強い量子性を示す特徴が,2ステップの演算の後まで保たれていることも確認し,演算のエラーで失われやすい量子性を維持できるレベルの高い精度で実行できていることも示した。
研究グループは,このプラットフォームがスパコンを超える誤り耐性型万能量子コンピュータへつながるとしている。