NTT、東京大学、理化学研究所、OptQCは、導波路型光デバイス(PPLN導波路)を用いて、高品質かつ広帯域の「スクイーズド光」を生成し、導波路型デバイスとして世界最高とする量子ノイズ圧縮10.1dBを達成したと発表した(ニュースリリース)。この成果は、光量子コンピュータの誤り耐性化に大きく前進するという。
研究開発は東京大学教授の古澤明氏らのグループが取り組んでいるものだが、古澤氏が開発している光量子コンピュータは、スクイーズド光を基盤とする連続量方式を採用し、時間多重で大規模な量子もつれ(クラスター状態)を生成、測定型計算で演算するというもので、全てを光技術で構成し、誤り耐性化と高速・大規模化を狙っている。古澤氏によると、「我々の光量子コンピュータは、スーパーコンピュータに比べて1万倍の速度があり、極めて省エネ化を実現する」と語る。

今回、光通信波長帯で実現した点が特長で、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)技術との親和性を生かした高速な光量子コンピュータの実装を後押しし、ニューラルネットワーク応用や、将来的な誤り耐性型量子コンピュータの実現を加速するとしている。
スクイーズド光とは、「量子のゆらぎ」を片側だけ小さくする光
光はどれほど安定に見えても、量子力学的には必ず「ゆらぎ(量子ノイズ)」を持つ。スクイーズド光は、光の波の性質を表す2つの成分のうち、一方の量子ノイズを”圧縮”して小さくした特殊な光だ。圧縮度(スクイージングレベル)が高いほど、計算に使える量子状態が「雑音に埋もれにくく」なり、誤差の少ない量子計算につながる。

今回観測した10.1dBは、量子ノイズを90%以上圧縮したことに相当し、NTTによれば、広帯域性を発揮できる導波路型光デバイスとしては最高水準だという。

速さと大規模化のカギは「広帯域」―テラヘルツ級で生成
連続量光量子コンピュータでは、スクイーズド光源が量子性の“源”となる重要部品の一つになる。広い周波数帯域でスクイーズド光を出せるほど、高速化や量子ビット数の増加に有利になるという。発表では、光デバイスと制御システムの改良により、テラヘルツ級の広帯域性を持つ光パラメトリック増幅器を用いて高いスクイージングを実現したとしている。


導波路設計と「位相制御」を刷新
高いスクイージングを“正しく測る/使う”には、基準光との相対位相を厳密に合わせる必要がある。一方で従来法では、位相同期の信号を取り出すために光を分岐すると、スクイーズド光自体が損失で劣化しやすい課題があった。デバイスはNTTは開発してきたものだが、研究では、励起光と基準光を非線形媒質の前で分岐し、位相同期信号は別の非線形媒質で生成する新手法を考案。低損失と高精度な同期を両立したという。

加えて、導波路から出射される光の空間形状が扱いやすい「真円に近い」形になるよう設計・作製プロセスを最適化し、他の光との干渉をしやすくした。
なぜ「誤り耐性(エラーに強いこと)」が重要なのか
量子コンピュータは、外乱や損失、部品の不完全さなどで計算途中の量子状態が崩れやすく、誤差が積み重なると答えが信頼できなくなる。そこで不可欠なのが「誤り訂正」だが、誤り訂正は“元の量子状態の品質が一定以上”でないと効きにくい。 光量子コンピュータでは、誤り耐性型を実現する有力候補としてGKP量子ビットが期待されている。発表では、スクイージングレベルが10dB級に到達すると、高次の符号化技術と組み合わせることで誤り訂正率が現実的な値に下がってくる可能性が示されており、今回の10.1dB達成はその前提条件に近づく重要なマイルストーンになる。

言い換えると、「計算を速く大きくする」だけでなく、「長い計算でも正しく動く」ための土台づくりとして、スクイーズド光の高品質化が効いてくる。
東京大学・教授の古澤明氏は、スクイーズドレベルを将来的には「15dBまで引き上げる」としている。古澤氏が研究開発している光量子コンピュータは、その性能向上の実現に対し、全て光技術を導入しており、中でもスクイーズドレベルの向上が性能を左右するとしている。
ニューラルネットワーク計算にも追い風
光量子コンピュータはアナログ計算機としての活用も期待されており、特にニューラルネットワークへの応用が検討されている。スクイージングが高いほど、実用的な規模のニューラルネットワークで解が収束しやすくなる可能性があるとしている。
今回発表された技術は、計算精度向上やムーンショット目標6が目指す将来の誤り耐性型量子コンピュータ実現に貢献するとし、この成果を導入した量子コンピュータを実装し、2027年に1万量子ビットの量子コンピュータ実証を目指す。



