地球温暖化やそれに起因すると考えられる干ばつや大雨など、さまざまな気候変動が人間社会を苦しめるようになってきました。そのため、二酸化炭素を排出しないためのさまざまな努力がなされています。
木は成長するときに空気中の二酸化炭素を取り込み、その中に含まれる炭素を使って幹や枝、葉を作ります。つまり、大きな木ほど多くの炭素を蓄えていることになります。森林は、いわば地球上の巨大な炭素の貯金箱なのです。
そのため、「どのくらい二酸化炭素の排出を減らさなければならないのか」を考えるためには、「森がどれだけの炭素を蓄えているのか」というデータが必要になります。
ところが、世界中には膨大な数の木があります。それらを一本一本調べて森全体にどれだけの炭素が蓄えられているのかを推定するのは簡単ではありません。一本一本数えるわけにもいきませんし、毎年森の中を歩き回って測るのも大変です。
そこで登場するのがレーザーです。NASAのGEDIというプロジェクトでは、国際宇宙ステーションから地球へレーザーを照射しています。レーザー光を宇宙から森へ向けて照射すると、その一部は木の葉に当たり、一部は枝に当たり、さらに一部は地面まで届いた後に反射して戻ってきます。この戻ってくる光の時間や強さを詳しく調べることで、木の高さ、森の立体的な構造、枝や葉の分布を三次元的に調べることができます。その結果、森がどのくらいの炭素を蓄えているのか、森林伐採でどれだけ炭素が失われるのか、森林火災でどれだけ影響が出るのかなど、すなわち「森がどのくらい地球温暖化の抑制に貢献しているのか」を評価できるようになります。実際、GEDIのデータは森林が蓄えている炭素量の推定に利用されています。
ここで面白いのは、レーザーが二酸化炭素そのものを測っているわけではないことです。レーザーは木の高さや枝の広がりを測り、そこから森の状態を推定しています。まるで病院で身長や体重を測り、健康状態を判断する健康診断のようです。
前回ご紹介したアユタヤの遺跡では、レーザーが見ていたのは数十メートルの建造物でした。ところがGEDIが相手にしているのは、アマゾン、東南アジアなど世界各地の森林です。レーザーの診察室は、いつの間にか地球全体へと広がっていたのです。
ただ、健康診断を受けるだけでは健康にはなれません。健康診断の結果から、今後どう健康を維持するか、回復するかを考えないといけません。レーザーがカッコよく仕事をしてくれているのですから、我々人間もカッコよく未来を考えたいものです。
■東京工科大学工学部教授 大久保友雅
略歴:博士(理学)東京工業大学 2006
東京工業大学で特任助教,助教の後,東京工科大学で講師,准教授を経て現職
(月刊OPTRONICS 2026年10月号掲載)







