分子研と東北大、分子振動スペクトルをナノ領域ごとに観測できる顕微分光法を開発

分子科学研究所と東北大学は、原子レベルで探針位置を制御可能な走査トンネル顕微鏡(STM)の金属ナノ探針先端にフェムト秒パルスレーザーを照射することで、1億分の1メートル級の高い空間分解能で表面分子からの和周波発生(SFG)信号を検出することに成功した(ニュースリリース)。

SFG分光法は分子の構造・配向情報を表面選択的に観測できる強力な手法として知られているが、その空間分解能は光の回折限界によってマイクロメートル程度に制限されていた。

今回、研究グループは、SFG分光の回折限界による制約を克服し、10nm級という極めて高い空間分解能で振動SFGスペクトルを測定することに成功した。また近接場光を応用し、探針直下の微小空間で選択的にSFG過程を引き起こすことで、光の回折限界よりも十分小さなナノ領域に存在する少数分子系からの探針増強SFG信号を取得した。

(図)a. SFG過程のエネルギーダイアグラム b. STM装置に設置した金探針の先端の拡大写真 c. 実験の模式図 d. 探針–基板間距離を約30ナノメートル離した場合(緑)と約0.7nmにまで近接させた場合(赤)に観測されたSFG信号の比較

今回の研究では、光をナノギャップに照射しながらドメインの境界をまたぐように探針を表面上で走査することで、ドメインごとに異なるSFGスペクトルをナノスケールで取得することに成功した。また、探針位置に依存したスペクトル形状の変化を解析した結果、約30nmという従来のSFG分光の限界を大きく上回る非常に高い空間分解能でSFG測定が実現できていることも明らかになった。

(図)a. 分子が吸着した試料表面のSTM像 b. aで示した10個の櫛型領域それぞれに対応する探針増強SFGスペクトル c. bで赤く影を付けた領域のSFG信号の積分強度変化を位置に対してプロットしたもの

2930cm-1付近のピークからは、試料表面にある分子の振動のパターンが読み取れた。また探針増強SFGスペクトルを系統的に観測した結果、フェルミ共鳴ピーク以外にも、メチル基の非対称伸縮振動モードやフェニル基のCH伸縮振動モードに由来する複数のピークが観測され、さらにこれらのピークの強度比がドメインごとに大きく異なっていることも分かった。

さらに、得られた最適化パラメータから、分子の応答を表す物理量である2次の非線形感受率(χ(2))を導出したところ、吸収応答に対応するその虚部(Im(χ(2)))は負の値を示した。

研究グループは、今回の研究は、分子の向きが決定的な役割を果たす様々な表面反応・表面現象の微視的機構の解明につながると期待されるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 東大と電通大、量子もつれ光子を利用した時間分解分光法の提唱

    東京大学と電気通信大学は、既存の単一光子検出技術で実装可能な、量子もつれ光子対を用いた新しい時間分解量子分光法を提唱した(ニュースリリース)。 分光分野では、量子もつれ光子対を利用することで、ショット雑音以下での吸収分光…

    2026.04.28
  • NICT,単一光子の和周波で量子もつれ交換に成功

    情報通信研究機構(NICT)は,単一光子間の和周波発生を用いた量子もつれ交換の実証に成功した(ニュースリリース)。 量子通信や量子計算のような量子情報処理分野では,2つの量子ビット間でのゲート操作が重要な基盤技術となる。…

    2025.10.14
  • 新潟大,蛍光分光法で無花粉スギの簡易識別法を開発

    新潟大学の研究グループは,蛍光分光法を用いた無花粉スギの簡易識別技術を開発した(ニュースリリース)。 無花粉スギの花粉を飛ばさない性質は,雄性不稔遺伝子と呼ばれる1つの潜性遺伝子で決まる。そのため,両親から雄性不稔遺伝子…

    2025.10.01
  • 名大ら,ナノ領域の水構造を分光と計測を通じて解明

    名古屋大学,独マックスプランクポリマー研究所,中国厦門大学,中国東南大学は,ナノメートルレベルの空間に閉じ込められた水の構造を和周波発生分光スペクトルの理論シミュレーションと計測を通じて明らかにした(ニュースリリース)。…

    2025.08.21
  • 明大ら,拡散相関分光法で微小循環変化を可視化

    明治大学と国立循環器病研究センターは,拡散相関分光法(DCS)を用いた非侵襲的・連続的な微小循環不全のモニタリング技術の実証に成功した(ニュースリリース)。 ショックとは,さまざまな理由で臓器に十分な血液が届かなくなる,…

    2025.06.04

新着ニュース

人気記事

編集部おすすめ

  • オプトキャリア