名大ら,ナノ領域の水構造を分光と計測を通じて解明

著者: 梅村 舞香

名古屋大学,独マックスプランクポリマー研究所,中国厦門大学,中国東南大学は,ナノメートルレベルの空間に閉じ込められた水の構造を和周波発生分光スペクトルの理論シミュレーションと計測を通じて明らかにした(ニュースリリース)。

ナノスケールの領域に閉じ込められた水は,通常の状態にある水とは大きく異なる物性を示すことが発見されてきたが,その性質がどのような特異な水素結合ネットワークに起因するのかは未解明だった。

研究グループは,表面を選択的に検出できる和周波発生(SFG)分光スペクトルの測定と,機械学習を利用した高精度分子動力学シミュレーションを組み合わせることにより,閉じ込めによる水素結合ネットワークへの影響を評価した。

サンプルとしてCaF2とグラフェンの間にナノメートルスケールで閉じ込められた水を観測した。そのサンプルのSFGスペクトルは,1.閉じ込められた水の構造,2.CaF2と接触した水の構造,3.グラフェンと接触した水の構造を反映したものと期待される。

2.と3.についてのSFGスペクトルは,CaF2やグラフェンと接触した閉じ込められていない通常の水のSFG測定から得られるので,閉じ込められた水のSFGスペクトルと閉じ込められていない水のSFGスペクトルを比較することで,1.閉じ込められた水の構造の影響を見積もることができる。

しかし,光が閉じ込められた水と閉じ込められていない水で同じように屈折するのか定かではない。実験結果を厳密に検証するためには,SFGスペクトルを計算する分子動力学シミュレーションが有用。何も仮定を入れる必要のないシミュレーションで実験と同じ結論を得られれば,実験で用いた仮定が問題ないことを理解できる。

CaF2,水,その界面をすべて記述可能な古典力場は存在しないため,第一原理分子動力学シミュレーションに加え,DeepPot-SEという機械学習分子動力学シミュレーションを行ない,SFGスペクトルを計算し実験と比較した。

その結果,閉じ込められた水のSFGスペクトルは,①3200cm-1近辺の負のピーク,②3460cm-1近辺の正のピーク,③3670cm-1の正のピークからなり,別途測定・シミュレーションした水/グラフェン,CaF2/水のスペクトルを足し合わせたものとよく一致した。

研究グループは,ナノ構造を活用した新規材料設計への今回の知見の活用が期待されるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 東大と茨城大、超小型X線光源でミクロ分子動態計測に成功

    東京大学と茨城大学は、X線動画で高分子樹脂内のミクロ分子運動を捉える新たな動態計測手法「透過 X 線明滅法(TXB)」を開発した(ニュースリリース)。 X線透過像は臨床ではレントゲン検査として利用されているが、今まで実験…

    2025.12.05
  • 科学大ら,界面の分子を捉える分光分析法を開発

    東京科学大学と理化学研究所は,物質の界面に存在する分子の挙動を高感度で解析できる新しい分光分析法「ギャップ制御赤外吸収分光法」を開発した(ニュースリリース)。 2つの物質が接する界面では,摩擦,接着,化学反応など,物質内…

    2025.10.20
  • NICT,単一光子の和周波で量子もつれ交換に成功

    情報通信研究機構(NICT)は,単一光子間の和周波発生を用いた量子もつれ交換の実証に成功した(ニュースリリース)。 量子通信や量子計算のような量子情報処理分野では,2つの量子ビット間でのゲート操作が重要な基盤技術となる。…

    2025.10.14
  • 筑波大,発光スペクトルで鉄酸化物薄膜の作成中解析

    筑波大学の研究グループは,電子デバイスなどの材料に用いる鉄酸化物薄膜の作製において,反応性スパッタ中に生じるプラズマ発光スペクトルの全波長データを機械学習で解析し,生成する薄膜の価数状態と成長速度をリアルタイムに推定する…

    2025.09.17
  • 北里大ら,マルチスペクトルカメラで非侵襲血液解析

    北里大学と東京理科大学は,マルチスペクトルカメラで牛の尾静脈付近(尻尾裏側)を撮影することで,非侵襲的にかつ瞬時に複数の血液成分の同時分析が可能となる新たな手法を開発した(ニュースリリース)。 牛の血液検査は代謝プロファ…

    2025.09.05
  • 北大,バンドギャップ予測可能なペロブスカイト設計

    北海道大学の研究グループは,機械学習によってバンドギャップ(光吸収の指標)を精密に予測・設計できるペロブスカイト無機材料の開発手法を確立した(ニュースリリース)。 近年,マテリアルズインフォマティクスの発展により,機械学…

    2025.08.21
  • 神大ら,光触媒の性能を予測できる機械学習を開発

    神戸大学と奈良先端科学技術大学院大学は,太陽光と水からCO2フリー水素を製造できる光触媒の性能を,少数データから予測できる機械学習モデルを開発した(ニュースリリース)。 太陽光と水からCO2フリー水素を製造できる光触媒は…

    2025.07.09
  • 熊本大,深層学習で細胞顕微鏡観察のジレンマを克服

    熊本大学の研究グループは,深層学習による顕微鏡画像の画質復元技術を活用して,植物細胞の分裂における初期の細胞板形成過程を可視化し,アクチン繊維の新たな局在パターンを明らかにした(ニュースリリース)。 細胞内の繊細な構造を…

    2025.05.20

新着ニュース

人気記事

新着記事

  • オプトキャリア