筑波大学の研究グループは、近赤外線を用いて生体内部の異常部位を非侵襲的に診断する拡散光トモグラフィにおいて、光輸送シミュレーションを従来の100万倍以上高速に実行するAIモデルを開発した(ニュースリリース)。

脳出⾎や悪性腫瘍は、治療成績の向上には体内の異常部位の早期発⾒が不可⽋である。そのための診断技術の⼀つである近⾚外線を⽤いた「拡散光トモグラフィ」は、光を⽣体組織に照射して内部の異常を検知するもので、体を傷つけず放射線も使わないことから、近年、世界中で研究が進んでいる。しかし、この⼿法で⾼精度な診断を⾏なうためには、光の⽣体内での複雑な伝わり⽅を記述する「光輸送⽅程式」を数値シミュレーションにより解く必要があり、スーパーコンピューターを⽤いても1回のシミュレーションには数時間がかかる。
さらに、異常部位の位置、⼤きさ、形状など、考慮すべきパラメーターは膨⼤であり、あらゆるパターンを網羅したシミュレーションを⾏なうことは現実的には不可能。このため、実際の医療現場でのリアルタイム診断への応⽤は⾮常に困難な課題となっていた。
今回の研究では、光シグナルの時間変化に着⽬した拡散光トモグラフィにおける数値シミュレーションを超⾼速に代替する、ニューラルネットワークを⽤いた機械学習モデルを開発した。まず、異常部位の位置やサイズのパラメータについて、数百通りの組み合わせで光輸送(光の伝播)の数値シミュレーションを実施した。このシミュレーションでは、星や銀河の形成を研究する宇宙物理学の分野で培われた光輸送の知⾒と数値計算技術を応⽤した。このようにして得られた数値シミュレーション結果、すなわち各パラメータの組み合わせに対応する検出器での光シグナルの時間変化を、ニューラルネットワークに学習させた。
学習済みのモデルは、異常部位の位置やサイズを⼊⼒として与えると、各検出器で得られる時間変化の光シグナルを出⼒する。その予測時間は約2ミリ秒であり、従来の数値シミュレーションでは計算に数時間を要するのに対し、100万倍以上の⾼速化を達成した。また、出⼒されるシグナルの誤差はシミュレーション結果と⽐べて⼗分に⼩さく、⾼い精度で再現できることが確認された。

この⼤幅な⾼速化により、これまで計算コストの観点から困難だった⼤量のパラメータ探索が現実的になる。さらに、このモデルをマルコフ連鎖モンテカルロ法という統計的なサンプリング⼿法と組み合わせることで、実際に観測された光シグナルをもとにした異常部位の位置や⼤きさの推定にも成功した。

分布
今回の研究では、拡散光トモグラフィにおいて、数値シミュレーションの範囲内で、機械学習により異常部位の位置や⼤きさを少ない誤差で⾼精度に推定できることを⽰した。現在は、数値シミュレーションに基づく検証段階にあるが、今後、臨床データを⽤いた応⽤を進め、より実⽤的な診断技術の開発を進めるという。将来的には臨床現場における脳出⾎や腫瘍のリアルタイム診断への応⽤が期待されるとしている。



