JAXA、超巨大ブラックホールからのガス噴出をX線分光撮像衛星が観測

著者: オプトロニクス 編集部

宇宙科学研究所(JAXA)は、X線分光撮像衛星(XRISM)が、近傍宇宙の活動銀河NGC3783の中心に存在する超巨大ブラックホールの近くで、ガスが突然噴き出す様子を観測した(ニュースリリース)。

銀河と中心の超巨大ブラックホールには質量の相関があることから、両者は互いに影響し合い共進化したと考えられているが、そのメカニズムは不明となっている。この課題を解決する鍵を握る「活動銀河核」は、超巨大ブラックホールに落ち込む物質の重力エネルギーが解放され、銀河中心が明るく輝く現象であり、超巨大ブラックホールの成長の現場と考えられている。

超巨大ブラックホールが成長するためには物質の降着が必要だが、それは同時にエネルギーや運動量が周囲に渡されることを意味する。 このプロセスは「フィードバック」と呼ばれ、銀河が時とともにどのように成長し変化していくかに重要な役割を果たしている。

【図】XRISM搭載軟X線分光装置Resolveによる
NGC3783のX線スペクトルとハッブル宇宙望遠鏡による画像

XRISMは活動銀河核NGC 3783を初期性能検証期の2024年7月18日から2024年7月27日までの10日間観測し、その詳細なスペクトルデータを取得。XRISMは観測期間中に、「軟X線」と呼ばれる波長帯での明るさの変動を確認した 。3日間続いた爆発現象を含め、こうした変動自体は超巨大ブラックホールでは珍しいことではないが、今回ユニークだったのは、ブラックホールの周りを渦巻く降着円盤からのガス放出の瞬間が観測されたという点だという。

このガスは秒速6万キロメートル、つまり光の速さの20%という猛烈なスピードで弾き飛ばされた。軟X線分光装置Resolve(リゾルブ)によって、その発生から加速の様子までを捉えることに成功した。

【図】超巨大ブラックホールから高速ガスが噴出する様子の想像図

ガスが噴出した場所は、ブラックホール本体の大きさの約50倍ほどの距離にある領域であった 。そこは重力と磁力が激しくせめぎ合う、極限の環境となっている。研究グループは、この噴出が太陽表面で起きる爆発現象(コロナ質量放出)と同じように「磁気リコネクション」という現象によって引き起こされたと考えているという。これは磁場の形が急激に変わり、莫大なエネルギーが解放される現象のことをいう。

【図】太陽観測衛星Solar Dynamics Observatoryがとらえた太陽からのフィラメント噴出

こうした噴出は強力な光のエネルギーによっても引き起こされるが、今回の原因は「磁場の急激な変化」にあるようだと推測される。計算してみると、今回観測された猛烈な急加速を起こすには、光のエネルギーだけでは全く足りないことが判明した 。その一方で、ガスが一気に加速していく様子を詳しく分析すると、太陽表面で起きるコロナ質量放出の加速パターンとそっくりであることが分かった 。このことから、太陽と同じように、ブラックホールの周りでも磁気リコネクションでガスが吹き飛ばされたと考えらえる。

今回の結果は、ブラックホールが単に物質を吸い込むだけでなく、特定の条件下では宇宙空間へ物質を吹き飛ばしていることについて、新たな知見を与えてくれます。長年の謎である活動銀河核から噴き出す超高速なガス噴出の駆動機構の解明および、ブラックホールから銀河へのフィードバック機構の解明につながる結果だとしている。

キーワード:

関連記事

  • 広島大ら、ブラックホールに落ち込むプラズマ構造を解明

    広島大学、大阪大学、JAXA宇宙科学研究所、愛媛大学は、気球望遠鏡XL-Caliburを用いた新たな観測により、ブラックホール周辺の極限的な環境を明らかにした(ニュースリリース)。 ブラックホールに降着し吸い込まれる物質…

    2025.11.28
  • 東大ら,宇宙望遠鏡で活動的なブラックホールを観測

    東京大学,中国 武漢大学,愛媛大学,立命館大学,国立天文台は,ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いて129億年前の宇宙に存在する活動的なブラックホール(クェーサー)を観測した(ニュースリリース)。 JWSTの…

    2025.09.25
  • 愛媛大ら,すばると宇宙望遠鏡でブラックホール発見

    愛媛大学の研究グループは,すばる望遠鏡の広域探査で見つけた初期宇宙の最高光度の銀河11個をターゲットとして,ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による超高感度観測し,7個の銀河の中に,塵に隠れて潜む巨大ブラックホールを発見する…

    2025.09.17
  • 愛媛大ら,ブラックホールX線連星の観測結果を発表

    愛媛大学,福岡教育大学,ミシガン大学は,2023年に打ち上げられたX線分光撮像衛星XRISM(クリズム)による,天の川銀河にあるブラックホールX線連星4U 1630-472の観測結果を発表した(ニュースリリース)。 ブラ…

    2025.08.19
  • 京大ら,テイル重力波を含む重力波波形を再構成

    京都大学,米Johns Hopkins大学,デンマークNiels Bohr研究所は,小さな外的環境で乱れた準固有振動の集合を取り扱うことで,テイル重力波を含む重力波波形を再構成できることを明らかにした(ニュースリリース)…

    2025.07.29
  • 京大ら,潮汐破壊現象の最高精度の偏光観測に成功

    京都大学らの研究グループは,京都大学せいめい望遠鏡・国立天文台すばる望遠鏡をはじめとする国際的な望遠鏡網により潮汐破壊現象AT2023clxを詳細に観測し,潮汐破壊現象に伴うガスの噴出方向と銀河中心環境が空間的に直交する…

    2025.06.23
  • JAXA,XRISMでブラックホール付近のX線放射を検出

    宇宙航空研究開発機構(JAXA)は,X線分光撮像衛星(XRISM)によって,ブラックホール連星であるV4641 Sgrに広がった暗いX線放射を初検出した(ニュースリリース)。 宇宙を駆け巡り地球に降り注ぐ高エネルギー放射…

    2025.04.22
  • 早大ら,110億年前の銀河団の星形成終焉過程を観測

    早稲田大学と国立天文台は,110億光年先にある過去の銀河団を最新のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いて,超巨大ブラックホール活動とともに銀河が一斉に成長を終える様子を捉えた(ニュースリリース)。 宇宙の銀河において「銀…

    2024.12.18

新着ニュース

人気記事

新着記事

  • オプトキャリア