JAXA、X線分光撮像衛星で『宇宙の嵐』を観測

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、X線でもっとも明るい銀河団であるペルセウス座銀河団における高温ガスの運動をX線分光撮像衛星「XRISM」で精密に測定し、銀河団中心部では超巨大ブラックホールが、その外側では暗黒物質に支配された銀河団の成長が、それぞれ異なる嵐を引き起こしていることを、世界ではじめて観測的に切り分けることに成功した(ニュースリリース)。

(図)Chandra衛星によるX線画像とXRISMによる観測領域、観測からわかったガスの動き(Credit: JAXA)

宇宙は、二つの相反する力のせめぎ合いによって形作られてきた。ひとつは主に暗黒物質が担う重力で、銀河やガスを引き寄せる力。もうひとつは、銀河同士を引き離そうとするダークエネルギー。ダークエネルギーの影響によって宇宙全体は膨張を続けているが、重力が勝利した領域では物質が集まり銀河や銀河団といった巨大な構造が形成される。

その到達点が、宇宙最大の天体である銀河団。銀河団では、数百もの銀河が数百万光年におよぶ広大な空間に集まり、現在も暗黒物質の重力により物質を取り込みながら成長を続けている。集められたガスは加熱された結果、数千万度、太陽の表面温度の5000倍以上にも達する。

太陽が可視光線で輝くのに対し、この超高温ガス(銀河団ガス)は強いX線を放射する。さらに、多くの銀河団の中心には巨大な銀河が存在し、その中心には太陽に数百万倍から数十億倍の質量をもつ超巨大ブラックホールが潜んでいる。

ペルセウス座銀河団は空で最もX線で明るい銀河団。天文学者は、銀河団ガスは静止しているのではなく、銀河団の成長やブラックホールの活動にともなって、嵐のような複雑な運動していると予想していきた。

しかし、このガスの運動を直接測定ことは困難だった。高温ガスに含まれる元素は、それぞれ固有の色を持っている。この色はガスが我々に近づく時にはわずかに青くなり、遠ざかる時には赤くなる。XRISMは、このわずかな変化を高精度で測定することで、ガスの速度を直接測ることができる。

この挑戦は、X線天文衛星(ASTRO-H)から始まった。ASTRO-Hはペルセウス座銀河団中心部およそ20万光年の領域で、ガスの嵐の兆候を初めてとらえた。その後継であるXRISMは観測範囲を80万年光年にまで広げ、ガスの速度の地図を描き出した。

銀河団中心の超巨大ブラックホール周辺では、視線方向の速度の幅が秒速200km、その外側では秒速80 kmまで低下、さらに外側では再び秒速200kmに上昇するという特徴的なV字型のパターンが明らかになった。

V字パターンの外側で見られる大きなガスの運動は、暗黒物質の重力に導かれて銀河団が100億年かけて成長してきたことによる台風のような嵐。銀河団が今も、周囲の物質を取り込んでいる証拠ともいえる。

一方、銀河団の中心ではより小さく激しい竜巻のような嵐が発生している。その原動力として最も有力なのが中心に潜んでいる超巨大ブラックホール。ペルセウス座銀河団のブラックホールは天の川銀河の中心の超巨大ブラックホールの200倍もの質量を持つ。

ブラックホールはしばしばすべてを吸い込む存在として描かれるが、実際にはそれだけではない。周囲から引き寄せたガスの一部を強いジェットや風として放出し、周囲の銀河団ガスにエネルギーを絶えず注ぎ込んでいる。XRISMは、こうしたブラックホールの活動が、銀河団中心部のガスをかき混ぜ、小さな嵐を生み出している様子を始めて直接とらえた。

(図)XRISMに搭載された軟X線分光装置Resolveによる、ペルセウス座銀河団中心部のスペクトル。(Credit: JAXA)

研究グループは、XRISMは、銀河団ガスの運動の地図を描き出すことにより、暗黒物質や超巨大ブラックホールといった見えない存在が、宇宙の天体の進化にどのような役割を果たしているのかを解き明かす、新たな扉を開いたとしている。

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