早稲田大学と東北大学は、すばる望遠鏡の多天体近赤外撮像分光装置MOIRCSを用いた分光観測により、初期宇宙にあるクエーサー周辺のガスの運動を調べ、超巨大ブラックホールの質量を高い精度で測定し、超エディントン降着段階にあるクエーサーを約120億年前の宇宙で発見した(ニュースリリース)。

多くの銀河の中心には、太陽の数百万倍から数百億倍もの質量を持つ超巨大ブラックホールが存在する。ブラックホールは周囲の物質を引き寄せて成長し、その過程で強い光を放つ。ブラックホールの周りには、ガスが円盤状に回り込む構造や、より内側の高温ガス領域、さらに一部の物質が高速で噴き出す「ジェット」が形成される。
そのため、可視光や紫外線、X線、電波など、さまざまな種類の光で観測される。特に明るいものはクエーサーと呼ばれるが、こうした天体がどのように成長し、その母銀河の成長とどのように関連しているのかは、いまだ大きな謎となっている。
この謎を解く重要な手がかりの1つが超エディントン降着と呼ばれる状態。ブラックホールが物質を取り込む速さには理論的な上限があるが、いくつかの天体ではこの上限を超えた超エディントン降着が観測されている。これは、ブラックホールが短時間で急激に大きくなる可能性を示すもので、初期宇宙にすでに巨大なブラックホールが存在していた理由を説明する有力な手段とされている。
研究グループは、すばる望遠鏡の多天体近赤外撮像分光装置MOIRCSを用いた分光観測により、初期宇宙にあるクエーサー周辺のガスの運動を調べ、超巨大ブラックホールの質量を高い精度で測定した。その結果、超エディントン降着段階にあるクエーサーを約120億年前の宇宙で発見した。
X線での明るさから見積もると、このクエーサーの質量降着率は理論的な上限値の約13倍になる。この換算が正しければ、これまでに観測された同程度の質量を持つ超巨大ブラックホールの中では最も急速に成長している天体が発見されたことになる。

特筆すべきは、このクエーサーがX線でも電波でも明るく輝いていること。これまで、超エディントン降着の段階では、高温ガス領域が効率的に冷やされためX線が弱くなり、電波で観測されるジェットも目立たなくなると考えられていた。
しかし今回の研究によって、超エディントン降着にありながら、X線と電波の双方で明るいクエーサーが初めて発見された。従来は想定されていなかった特異なメカニズムが、このクエーサーに隠されている可能性がある。
研究グループは、極めて明るいX線が観測された理由として、超巨大ブラックホールの成長の勢いが変化している可能性を提唱している。星やガスの塊との衝突などによって一時的に大量のガスが流入すると、ブラックホールは急激に成長して超エディントン降着に入り、その後、元の状態へ戻っていく。
その過程で超エディントン降着と明るいX線放射が同時に現れる可能性が考えられる。今回の天体でも同様の現象が起きているならば、初期宇宙で超巨大ブラックホールの成長が変動を伴いながら進行する過程を初めて捉えたことになる。
また、電波の明るさは、このクエーサーが、母銀河での星生成を抑制しうるほどの極めて激しいジェットを放出していることを示している。
研究グループは、今回の発見は、初期宇宙において母銀河と中心の超巨大ブラックホールがどのように影響し合いながら成長するのかを理解する上で、重要な手がかりになるとしている。



