日本が世界に頼られる先進技術が必要
―多次元造形研究センターがリニューアルされました
今回のKプロは,リニューアルされた多次元造形研究センターを拠点として進めていきます。また,接合科学研究所(接合研)全体としても,「溶接」にとどまらない技術開発を目指しています。

その根底にあるのは,日本の技術のプレゼンス向上です。世界から「日本の技術がなくても困らない」と思われてしまっては,未来はありません。ですから,日本が世界に必要とされ続けるためには,「この技術がなければ世界が回らない」と言ってもらえるような先進技術を絶えず生み出す必要があると感じています。そのために,このセンターは「世界から求められる先進技術を開発する拠点」として再整備されたのです。
─先生が思い描いている青色レーザーの可能性と開発トレンドについてお聞かせください
私は日本溶接学会「パワービームプロセス」分科会の日本代表を務めており,2025年3月にスウェーデンで開かれた国際会議に参加しました。そこでの主な議題は「安全性」でした。ハンドヘルドのレーザー溶接機が普及してきているからです。中国製の近赤外ファイバーレーザーは,1kWの出力でレーザー単体が約60万円,システムとしても100〜200万円程度と非常に安価で,ヨーロッパでも急速に普及しています。日本の中小企業でもすでに広まりつつあると聞いています。
問題は,これまで手持ちのアーク溶接を使っていた方々が,そのレーザーの特性を十分に理解しないまま使用を始めている点です。近赤外レーザーは肉眼では見えないため,反射による危険性が高く,ゴーグルの着用が必須です。しかし,目に見えないために油断が生じやすいのが現実です。
そこで私が会議で主張したのは,「目に見えないレーザーだからこそ,可視光である青色レーザーの方が安全ではないか」という点でした。例えば,「におい付きの都市ガスと無臭ガスのどちらが安全か」というとどうでしょうか?色の付いたレーザー(=青色レーザー)の方が直感的に安全対策に寄与するというのは,理にかなっていませんでしょうか。
もちろん現状では,青色レーザーは近赤外に比べて価格が高く,製造拠点も限られています。 レーザーの研究開発トレンドは,「スパッタレス溶接」や「ビームプロファイルの制御」といった方向性が引き続き主流です。ただし,新たな課題として,安全性への配慮とその啓発が今後ますます重要になるでしょう。
―先生の教育活動に対するお考えについてお聞かせください
日本の産業を発展させるためには,やはり産学連携が不可欠だと考えています。しかし,特定の先生が退職したとたんにその研究が失われてしまうようでは意味がありません。その技術が脈々と継承され,常に最新技術へと進化していく拠点づくりが必要です。
それを支えるのが「教育」だと私は考えています。次世代をきちんと育てることは,決して簡単ではありませんが,とても重要な使命です。例えば,フラウンホーファー研究所のような機関は,まさにそうした拠点の代表例です。
私たちの研究室では,学部4年生の段階から海外の学会で発表させています。コアタイムなどは設けていませんが,国際会議で発表するという目標を設定することで,学生自身が主体的に研究に取り組むようになります。
国内の学会も大切ですが,やはり世界を見せることが重要だと考えています。若いうちに世界を体験することで,日本の立ち位置や強みも自然と理解できるようになります。それが拠点教育の本質だと思います。
また,新型コロナ禍によって長らく実施できていなかった「武者修行」的な教育プログラムも復活させたいと考えています。これは,学会発表だけでなく,主要な研究機関や企業を学生と一緒に訪問し,現地でプレゼンテーションを行なうという取り組みです。
過去には,フラウンホーファー研究所やトルンプ社,シュトゥットガルト大学など,レーザー加工の最先端を担う組織を巡りました。学生たちに「夢を持たせる教育」が必要だと,常々感じています。
(月刊OPTRONICS 2025年8月号 Human Focus「青色レーザーで切り拓く,日本発の次世代ものづくり」)



