宇宙の見えないものをレーザー干渉計で探る

ただし,鏡で反射すると偏光面の回転の向きが反転するため,腕共振器の反射光を用いた場合,アクシオンによる偏光面変化の影響は打ち消されてしまう。一方,レーザー光が腕共振器を往復する時間が,アクシオン場の振動周期の奇数倍になるときは偏光回転が打ち消されずに積み重なる。アクシオン場は質量によって決まる周波数で振動するため,この条件を満たす質量のアクシオンに対しては特に高い感度を持つことになる。例えば,基線長3 kmのKAGRAでは,期待される感度は図5のようになる。

重力波は光の位相変化として,アクシオンは偏光の変化として現れるため,一つのレーザー干渉計で重力波観測とアクシオン探索を同時に行うことができる。私たちは2019年にこの手法を提案し5, 6),2021年にはKAGRAの腕共振器透過光にアクシオン探索を可能にする偏光光学系を導入した(図4の写真)。そして2025年6月から約2ヶ月間,重力波観測と同時に世界初となるアクシオン探索データを取得し,現在その解析を進めている。KAGRAはまだ設計感度には到達していないため,図5に示した期待感度に到達することは難しいものの,重力波望遠鏡を用いた初のアクシオン探索結果を今年中に発表する予定である。

図6 DANCEの模式図と東京大学本郷キャンパスで進めているプロトタイプ実験の写真(撮影:藤本拓希)。
図6 DANCEの模式図と東京大学本郷キャンパスで進めているプロトタイプ実験の写真(撮影:藤本拓希)。

KAGRAを用いる利点は,すでに建設されている3 kmの巨大な光共振器をそのまま利用できることである。一方で,アクシオン探索に特化した装置を新たに作ることで,より広い質量領域にわたって高い感度を実現することができる。2枚の鏡からなるファブリ・ペロー共振器では,鏡で反射するたびに偏光面の回転が反転してしまうが,図6に示すようなボウタイ型の光リング共振器では,両端での2回の反射で偏光が元の向きに戻る。私たちは,これを利用すればアクシオンによる偏光面の回転を効率よく増幅できることに気づき,周回長10 m程度の実験室規模の光リング共振器でも従来の実験を数桁上回る感度が実現できることを見いだして,2018年にこの実験を提案した7)

私たちはこの実験をDANCE(Dark matter Axion search with riNg Cavity Experiment)と名付け,東京大学本郷キャンパスにある実験室で装置開発を進めている。2021年5月には周回長1 mのプロトタイプを用いた初の観測運転を行い,磁場を用いないアクシオン探索実験として世界初の上限値を設定した8)図5に示すように,その後も装置の改良を重ね9),これまでに約5桁の感度向上を達成している。

現在は,波長可変の高出力レーザーなどを用いたさらなる高感度化を進めており,アクシオンダークマターの発見を目指して研究を続けている。この研究には,重力波望遠鏡で培われた光共振器やレーザー安定化などの技術が活かされている。一方で,アクシオン探索を通して得られた偏光計測や鏡の複屈折に関する知見は,重力波望遠鏡そのものの性能向上にも還元されている。私たちは,そうした技術の積み重ねを通して,宇宙の見えないものの正体を明らかにしたいと考えている。

4. おわりに

本稿ではアクシオンを中心に紹介したが,私たちはこのほかにも,ベクトル場やスカラー場の探索,重力波を利用した新粒子探索など,さまざまな研究を進めている。もちろん,重力波そのものも,ブラックホールのように目では見ることのできない天体を観測する新しい手段であり,宇宙膨張の速さを表すハッブル定数の測定などを通して,ダークエネルギーの正体に迫ることも期待されている。

科学の歴史を振り返ると,人類は計測技術を発展させることで,それまで見えなかったものを次々と見えるようにしてきた。そのたびに,私たちの宇宙に対する理解は大きく深まってきた。一方で,宇宙の約95%が私たちのまだ知らないダークマターやダークエネルギーで占められていることもわかってきた。見える世界が広がると,新たな謎も見つかるのである。

アクシオンは,その謎を解く鍵となるかもしれない。もし発見されれば,宇宙の暗黒成分の正体を理解する手掛かりになるだけでなく,素粒子の標準理論を超える新粒子の初めての発見となり,私たちの宇宙観を大きく変えることになるだろう。しかし,アクシオンが本当に存在するかどうかは誰にもわからない。存在するかどうかさえわからないものを,実験や観測によって確かめていくことこそが,基礎研究の醍醐味である。面白そうだと思った方は,ぜひ一緒に宇宙の見えないものを探してみませんか。

参考文献
1)マーティン・ガードナー(著),坪井忠二(翻訳),小島弘(翻訳),藤井昭彦(翻訳)『自然界における左と右』(紀伊國屋書店,1992)
2)Y. Minami, E. Komatsu, Phys. Rev. Lett. 125, 221301 (2020)
3)Planck Collaboration, A&A 641, A6 (2020)
4)LIGO Scientific Collaboration and Virgo Collaboration, Phys. Rev. Lett. 116, 061102 (2016)
5)K. Nagano, T. Fujita, Y. Michimura, I. Obata, Phys. Rev. Lett. 123, 111301 (2019)
6)K. Nagano, H. Nakatsuka, S. Morisaki, T. Fujita, Y. Michimura, I. Obata, Phys. Rev. D 104, 062008 (2021)
7)I. Obata, T. Fujita, Y. Michimura, Phys. Rev. Lett. 121, 161301 (2018)
8)Y. Oshima, H. Fujimoto, J. Kume, S. Morisaki, K. Nagano, T. Fujita, I. Obata, A. Nishizawa, Y. Michimura, M. Ando, Phys. Rev. D 108, 072005 (2023)
9)H. Takidera, H. Fujimoto, Y. Oshima, S. Takano, K. Komori, T. Fujita, I. Obata, M. Ando, Y. Michimura, Phys. Rev. D 112, 063048 (2025)
10)C. O’Hare, “cajohare/AxionLimits: AxionLimits,” https://cajohare.github.io/AxionLimits/

■Exploring the dark universe with laser interferometers
■Yuta Michimura
■Associate Professor at Research Center for the Early Universe, Graduate School of Science, The University of Tokyo

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