宇宙の見えないものをレーザー干渉計で探る

2. 宇宙は見えないもので満ちている

図2 プランク衛星が観測した宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎの全天マップ(出典:ESA and the Planck Collaboration)。色の違いは,平均温度2.725 Kに対して約10万分の1という,ごくわずかな温度の違いを表している。この温度揺らぎの模様を解析することで,宇宙の年齢やエネルギー組成を求めることができる3)。
図2 プランク衛星が観測した宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎの全天マップ(出典:ESA and the Planck Collaboration)。色の違いは,平均温度2.725 Kに対して約10万分の1という,ごくわずかな温度の違いを表している。この温度揺らぎの模様を解析することで,宇宙の年齢やエネルギー組成を求めることができる3)。

宇宙マイクロ波背景放射とは,宇宙のあらゆる方向から届くマイクロ波のことである。そのスペクトルは2.725 Kの黒体輻射と極めて高い精度で一致しており,温度の非等方性は約10–5とごくわずかである(図2)。現在見えている空の遠く離れた領域は,互いに影響を及ぼすことができないほど離れているにもかかわらず,ほぼ同じ温度を示していることになる。これは,宇宙誕生直後には宇宙全体が非常に小さく,現在は遠く離れている領域も温度が均一な熱平衡状態にあったが,インフレーションによって急激に膨張したと考えることで自然に説明できる。宇宙は約138億年前,高温・高密度状態のビッグバンから始まり,その後も膨張とともに冷え続け,宇宙誕生から約38万年後に放たれた光が,現在では2.725 Kのマイクロ波として観測されている。これが現代宇宙論の標準的な描像である。

宇宙マイクロ波背景放射のわずかな温度揺らぎには,宇宙を構成する成分がどれくらいの割合で存在するかという情報も含まれている。プランク衛星による最新の観測結果によると,宇宙全体のエネルギーのうち,私たちがよく知っている原子などでできた通常の物質はわずか約5%に過ぎず,約27%がダークマター,約68%がダークエネルギーであることがわかっている3)図2)。つまり,私たちが正体を理解しているのは,宇宙全体のわずか5%に過ぎないのである。

ダークマターとは,重力以外の相互作用をほとんどしないため直接観測できない正体不明の物質である。その存在は,1930年代に銀河団の運動を説明するために提唱され,その後,銀河の回転速度などさまざまな観測によって支持されてきた。銀河中心の周りを回る星の運動を調べると,銀河の外側でも内側とほとんど変わらない速さで回転していることがわかる。しかし,目に見える通常の物質だけが重力を及ぼしているとすると,外側の星はその速い回転速度のため,遠心力によって銀河の外へ飛び去ってしまうはずである。そこで,目には見えないダークマターが存在し,その重力によって星を銀河につなぎ止めていると考えられている。

一方,ダークエネルギーは宇宙の膨張を加速させていると考えられる正体不明のエネルギーである。ダークマターが重力によって物質を引き寄せて銀河や銀河団などの宇宙の大規模構造を作り,ダークエネルギーは宇宙の加速膨張によって銀河同士を遠ざける。この二つの相反する効果の強さが現在観測される宇宙の姿を決めており,宇宙マイクロ波背景放射の温度揺らぎや現在の宇宙の構造を詳しく調べることで,両者の割合を推定することができるのである。

さて,ダークマターやダークエネルギーの正体についてはさまざまな候補が考えられているが,アクシオンはその有力候補の一つである。アクシオンはもともと,陽子や中性子を構成するクォーク同士を結びつける強い相互作用における問題を解決するため,1970年代に提唱された仮説上の素粒子である。その後,超弦理論などでも,アクシオンに似た粒子(ALPs)が自然に現れることがわかり,宇宙の暗黒成分の謎を解く手がかりとして,近年注目を集めている。

アクシオンが光子や電子などの通常の粒子と強く相互作用すると,宇宙は現在観測されているものとは大きく異なってしまう。そのため,アクシオンは通常の粒子と相互作用するとしても,その強さは極めて小さいと考えられている。このごくわずかな相互作用を捉えるため,世界中でさまざまな実験や観測が行われている。特に,光との相互作用を利用した探索は盛んに行われており,強い磁場中で光子がアクシオンに変換されたり,逆にアクシオンが光子に変換されたりする効果を利用した実験が長年行われてきている。一方,我々は磁場を用いない新しい手法として,アクシオンとの相互作用によって光の偏光面が回転する現象に着目している。レーザー干渉計を用いた高精度な偏光計測により,この極めてわずかな偏光回転を捉えることで,アクシオンの探索を行っている。

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