新規赤外受光材料の開発に向けたMg3Sb2薄膜のエピタキシャル成長

ミニインタビュー

坂根先生に聞く
視点を変えて見えた赤外受光材料の可能性

─研究を始めたきっかけから

もともとは熱電材料の研究を行っていました。熱を電気に変換する材料で,特にMg3Sb2やそれにビスマスを添加した材料は注目度が高く,その分野に取り組んでいました。

現在所属している研究室の鵜殿治彦先生が赤外受光素子の研究もされており,「Mg3Sb2は赤外受光にも使えるのではないか」という提案をいただいたのがきっかけです。実際に試してみると赤外光で応答する材料になっていることが確認でき,そこから本格的に研究を進めるようになりました。

─この研究の面白さを教えてください

熱電材料として知られていた材料が,別の用途にも使える可能性を持っている点が非常に興味深いところです。同じ材料でも視点を変えることで,新しい物性や機能が見えてくる。

また,Mg3Sb2を赤外受光材料として本格的に扱っている例はまだほとんどありません。その意味で,新しい用途を切り拓いていく研究であるという点にも面白さを感じています。

─研究している中で苦労をしていることは

Mg3Sb2系(特にビスマスを添加した系)は,大気中での安定性があまり高くありません。そのため,いかに材料を安定に扱い,薄膜として成長させるかが大きな課題になっています。

材料の性質そのものに起因する難しさと向き合いながら,安定化の手法を模索しているところです。

─どのように応用されることを期待していますか

赤外線を利用すると,物体の温度分布や水分量などを非接触で把握できます。例えば農業分野では,作物の水分量を測定することで生育管理に役立てることが考えられます。

また,自動運転などの分野では,暗闇でも周囲の状況を把握するためのセンサーとしての応用も期待できます。赤外受光材料としての性能が向上すれば,こうした応用の幅はさらに広がると考えています。

─若手研究者が置かれている状況について

近年は国のプロジェクトなどを通じて,研究費の申請機会は増えていると感じます。一方で物価の上昇もあり,個人で装置を揃えて研究を進めるのは簡単ではありません。

そのため,これからは他の研究者と連携し,協力しながら研究を進めることがより重要になっていると思います。

─若手や学生に向けてメッセージをお願いします

学生の中には研究職に進まず,就職する人も多いですが,もう少し研究そのものを楽しんでほしいと思います。

研究を楽しむことを忘れずに取り組めば,アカデミックの世界でも十分に活躍できる人は多いはずです。まずは「楽しむ」という気持ちを大切にしてほしいですね。

(聞き手:梅村舞香)

さかね しゅんや
所属:茨城大学 学術研究院 応用理工学野 講師
略歴:2020年大阪大学大学院基礎工学研究科修了,博士(工学)。日本学術振興会特別研究員(DC1),中央大学助教を経て,2023年4月より現職。専門は電気・電子材料工学,熱電変換材料。ナノ構造を用いた熱電特性制御や薄膜の結晶成長などの研究に従事し,応用物理学会講演奨励賞等の受賞歴を持つ。近年は,薄膜成長技術を応用し,赤外受光材料にも取り組んでいる。
趣味:野球観戦

(月刊OPTRONICS 2026年5月号)

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