理化学研究所(理研)、東京理科大学、藤田医科大学の共同研究グループは、X線ライトシート顕微鏡「MAXWELL」に近赤外光(NIR)の検出を組み合わせた新たな顕微鏡「NIR-MAXWELL」を開発し、透明化処理をしていないマウス脳で、従来より深い位置にある血管を可視化することに成功した(ニュースリリース)。今回の条件では、観察可能な深さが可視光検出の300μmから800μmへと約2.7倍に広がった。

ライトシート顕微鏡は、薄いシート状の光で試料の断面を照らし、その発光を横方向から撮影することで三次元像を得る手法である。ただし、生体組織では光の散乱や吸収が起こるため、深部まで観察するには組織を光が通りやすい状態にする「透明化処理」が用いられる場合がある。
研究グループは2022年、励起光として透過力の高いX線を利用するMAXWELLを開発している。X線で組織内部にある蛍光体を直接発光させることで、光を使った励起で生じる深さ方向の制約を抑えられる。一方、組織の奥で生じた蛍光をカメラまで届ける際には、依然として組織による光の散乱が影響することが課題だった。
そこで今回、可視光よりも生体組織内で散乱されにくい近赤外光に着目した。X線の高い透過性と近赤外光の散乱の少なさを組み合わせることで、組織深部からの発光を捉えやすくすることを狙った。
研究ではまず、X線を照射すると近赤外光を発する蛍光体を検討した。その結果、イッテルビウム(Yb)とエルビウム(Er)を添加した酸化イットリウム(Y₂O₃)を、今回の測定条件で強い近赤外信号が得られる材料として選定した。この蛍光体を混ぜたシリコーン樹脂をマウスの脳血管に充填し、摘出・固定した脳を透明化せずに撮影した。
同一の脳試料を可視光と近赤外光で比較したところ、連続した血管構造を確認できる深さは可視光検出で脳表面から300μmだったのに対し、近赤外光では800μmに達した。また、蛍光体を含む針状の模型を脳組織内に挿入した検証では、近赤外光の方が発光像の横方向への広がりが小さく、組織内部の発光位置をより明瞭に捉えられる可能性も示された。
生体組織の透明化は内部を光学的に観察するための有力な手法だが、試料の処理工程が必要になる。今回の方式では透明化処理を介さずに観察できる領域を深部へ広げられたことから、脳血管の分布やつながりなどを三次元的に調べる新たな手法として期待される。
研究グループは今後、X線照射によってより明るく発光する蛍光体の開発や、組織内での光の伝搬を考慮した発光波長の選択、カメラの検出感度向上などを進める。観察深度と撮影範囲の拡大、撮影時間の短縮を図り、脳をはじめとした生体組織の三次元構造解析への応用を目指すとしている





